『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』WONK・井上幹さん【後編】

もっと広い「音楽じゃなきゃダメだったんだ」という体験をしてみたい

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。

「なんとかしなきゃ」感でむしろ先に進める

水野:WONKのみなさんは実験的な取り組みをいろいろやられているなかで、コロナ禍には、フル3DCGバーチャルライブを開催されました。これはどういったライブなのでしょうか。

井上:コロナ禍の初期におこなったライブだったんですけど、メンバー全員、生身ではなくて、CGモデルになって。かつ、モーションキャプチャー用のスーツを着て、そのアバターを動かしながら、3Dの世界でしかできない演出を観てもらう、というものですね。めちゃくちゃおもしろかった。実際のライブだとできない演出が、自分の身の回りに起こるので。

水野:井上さんはどうやって新しいことを見つけているんですか? 単純にアンテナを広く張っているのか。

井上:そうですね。でもCGライブは、自分が勤めている会社に、Vチューバーとかを取り扱っている別の会社がありまして、そこの方から声をかけていただいたんです。なので、自分で発見したというより、活動範囲が広いから、話しかけていただけるというか。ありがたいことに大体、何かの最初とか、何かの実験とか、そういうおもしろい取り組みの最初に声をかけていただいて。それはこちらも大歓迎なのでやっている感じですね。

水野:前例がないことをやるのは、いろんな難しさもあると思うんですけど、楽しむことができるんですね。

井上:多分、メンバーみんな楽しんでいると思うし、自分自身そこがいちばんのモチベーションです。やってみて問題がいっぱいあると、「なんとかしなきゃ」感が生まれて、むしろ先に進めるというか。

水野:こじつけかもしれないですけど、すごくジャズっぽいですね。予定調和を嫌うというか。一応のルールはあるけど、そのなかで新しい事態に対して対処する。そっちのほうがワクワクするタイプ。

井上:まさにそうですね。ライブで演奏中、まったく違う曲が始まってしまったり、ソロでみんな好き勝手やりすぎて、「この先、誰がどうしていく?」ってなったりしても、メンバーみんな笑っちゃうんです。

水野:自分たちの楽しみとリスナーの楽しみにはどういう距離感で向き合っていますか? WONKに求められることも多くなってきている気がするんですけど、どこらへんまで応えるのか。考えずにいくのか。

井上:まずひとつは、リスナー。みなさん、温かい。自分たちが笑って演奏していると、結果、盛り上がってくださるので、多少の甘えはあると思います。でも「このパートでは、対お客さんでしっかり演奏したほうがいいな」とか、そういうことはセットリストを組むときに、メンバーみんなで話していて。そこと好き勝手やるゾーンのバランスは、バンド内で取っていますね。

水野:ファンのみなさんも、挑戦性をなくしたWONKがいいかというと、そうじゃないですもんね。

井上:だからこそ、そこは悩むところでして。これ以上、多くのひとに聴いてもらおうと思うと、しっかりしないといけない自覚はみんなある。とはいえ、挑戦しないとつまらなくなっちゃう。いつも悩みどころですね。

水野:まだそこは答えが出てないですか。

井上:出てないです。出ないのかもしれないですし、自分たちがそういう音楽が好きである以上、しょうがないことなのかなとも思いますね。

水野:急に自分の話になって恐縮なんですけど、いきものがかりは“お茶の間”に向きすぎているグループで。比べるもんでもないけれど、わかりやすく言うと、WONKと真逆にいるような。だからこそ、リスナーの方との距離感に興味があるんですよ。肌感として、ご自身たちの楽しみだけに向き合った曲と、よりオープンに作った曲、どちらのほうが手応えありますか?

井上:結局、自分たちの好きなことをやった曲のほうが、手応えあることが多いと思います。それは多分、リスナーの規模がまだそこまで広がっていないから。期待されているものが、パッケージされた完璧な曲ではない。リスナー層をこのままでいくのか、もうちょっと広げていくのか、みたいなところも悩みどころではありますね。

水野:おもしろいですね。どうして自分たちのやっていることが内側に向いて、ガッっていったときのほうがいい感覚を得られるんでしょう。

井上:楽曲のよさっていろいろありますけど、僕らは自分たち側に向き合ったほうが、持っている総量のパワーが出るってことですかね。水野さんもそうだと思うんですけど、自分は嫌だけどひらく方面に立っている方ってあまりいない気がして。本当にポップス愛に溢れている方が、正しい方向を向きながら、正しいことをやっている。ただ、WONKがそっちになっちゃうと、相対としてのパワーが減ってしまうんだと思います。

水野:それぞれのアーティストにとって、エネルギーの総量をいちばんいい形に表出できるのはどういうスタイルなのかが大事で。それはアーティストごとにそれぞれ違う。ベクトルの向きが違うだけで、実はやっていることは同じなのかもしれませんね。

AIにできることが明確になると

水野:もうひとつトピックとして、音楽制作において今、様々な面でAIが使われていると思います。率直に、生成AIとか、そういうものをどのように受け止めていらっしゃいますか?

井上:僕自身は、AIを活用することに賛成の立場でして。平たく言うと、AIにできることが明確になると、自分は何をするべきかわかってくるんじゃないか、というのがいちばん思うところで。たとえば、要件があって求められるゲームのBGMとかは、キーワードさえあればAIに作れる可能性はある。それはそれで、できたものがよければいいと思います。

一方で、自分が表現したいものは、自分がプロセスを踏まないと実感がないと思うんですよね。だから、ツールが発達していくなかで、表現としての音楽に立ち返って、どういうプロセスを踏みたいかというところに集中できる。そういう意味では素晴らしいことじゃないかなと思っています。

水野:AIが進化しても、自発性みたいなものをどう成立させられるか。僕もよく「AIがさらに進化して、めっちゃすごいソングライターが増えたら…」って考えるんですけど、別に今の状況と変わらないなと(笑)。それこそWONKを目の前にしたら、自分と比べものにならないすごい作品を作っているし。横を向けば、すでにすごいひとたちがいっぱいいるから。そのひとが増えるだけ(笑)

井上:はは。

水野:だけど、自分が作るという楽しみは、誰にも奪われない。

井上:いや、本当そうです。

水野:そこは変に楽観的になっちゃう。職業としての音楽は奪われるかもしれないけど、自分が作る楽しみは、AIには奪われないもので。意外とこれが大事なことですよね。

井上:あと、いっぱいのお客さんと向き合うことって、集合を考えて音楽を作っていくことになるじゃないですか。BGMとかもそうですけど、「多くのひとにこう思ってもらえるような曲」って、一定の答えがあるとは思っていて。AIが出てくると、その答えをパっと出してくれる。だとしたら、その答えじゃないところで、「自分がやりたいことってなんだろう」と考え始めると、もっとおもしろい音楽がいっぱい出てくるんじゃないかなって。それは楽しそうな未来だなと思っています。

水野:結果、みんな答えからズレていくことになるという。

井上:音楽を作ったことないひとが、手軽に作れるのもいいなと思っていて。自分も体験として、作曲を始めたことによって、音楽の楽しみが数倍になったんですね。いろんな楽器や構成に目が行くようになったし。いわゆるライトな音楽リスナーの方も、自分で一度作ってみると、楽しみ方が増える気がする。なので、みんな作ったらいいと思います。

音楽で世に何を発信していけばいいかわからない

水野:改めて、井上さん自身はこれからどういう音楽を作っていきたいですか? 

井上:それが今の課題なんです。自分ひとりで、音楽で世に何を発信していけばいいかわからなくて。言いたいことあるなら言えばいいと思う。他者の思いを歌っても、それは自分のことじゃないと思う。かといって、「自分が思っていることで、音楽じゃなきゃ表現できないことって何だっけ?」と、なっているフェーズですね。

水野:「俺にとって、その答えはこうだ」って言えるひといるじゃないですか。それはそれでいいと思うんだけど…本当、何を発信していけばいいかわからなくないですか?

井上:わからないですよね。もっと広い「音楽じゃなきゃダメだったんだ」という体験をしてみたいな、と思っています。

水野:最後に、井上さんからこれからクリエイターを目指すひとたちへメッセージをお願いします。

井上:クリエイターを目指す方、と限定できないかもしれませんが、全員が全員、作ったらいいと思っていて。 みんな日常にクリエイティブがあるほうが絶対、人生楽しいだろうから。もう今、本当に一瞬で、自分の言葉を打ったら音楽ができますし。AIに演奏させるツールもいっぱいありますので、とりあえず何かを作ってみたらいいんじゃないかな、と思っております。

水野:まずは始めてみる。しかも、始めるハードルがすごく下がってきていますよね。

井上:そうなんですよ。「ハードル低いですよ」っていうことをお伝えしたいです。

水野:それをWONKのメンバーに言っていただけると、みんな勇気が持てるんじゃないかな。さらに、2024年8月7日にニューリリースをされたということですけれども。どんな作品になりましたでしょうか。

井上:WONK feat. Jinmenusagiで新しい曲を。Jinmenusagiというラッパーがおりまして。WONKは、EPISTROPHというレーベルを運営しているんですけど、そこで彼の作品をリリースしたことがあったり、親交があるラッパーで。東京のカオスさを、わりと暗めに悲観的に表現している楽曲ですが、かっこいい出来になったと思っております。

水野:カオス、いいですね。みんなが整理できないカオスが欲しいですね。というわけでございまして、今回はエクスペリメンタル・ソウルバンド・WONKの井上幹さんをゲストにお迎えしてお届けしました。ありがとうございました。

J-WAVE Podcast  放送後 25時からポッドキャストにて配信。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集: 井出美緒、水野良樹
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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