クリエイターが作りたいものを具現化する橋渡しに。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、VoiceCast(ボイスキャスト)代表の細谷海さん、そして映像制作会社IDENCE(アイデンス)代表で、映像作家の板谷勇飛さんです。

細谷海(ほそやかい)
2002年生まれ。株式会社VoiceCast(ボイスキャスト)代表取締役CEO。2025年1月15日付で一橋大学発学生ベンチャーとして正式に認定。VoiceCastは、生成AIやLLMを活用した独自の音声コンテンツ作成・クリエイターの作業効率化支援を手掛けるスタートアップ。
板谷勇飛(いただにゆうひ)
2001年生まれ。株式会社IDENCE(アイデンス)代表取締役。クリエイティブサークルsense.ファウンダー。映像作家。2021年に現会社を学生起業。ブランド広告からサービス紹介VP、コーポレートWEBなどのクリエイティブを手掛ける。実写から3DCGに渡る幅広い実務知識を生かし、主にアートディレクションとプロデュースを担当。
水野:おふたりはどのようなつながりなのでしょうか。
板谷:約2年前、学生たちの起業家コミュニティで出会いました。たまたまチームが一緒で仲よくなり、そこからのつながりですね。

細谷:ガジェット集めという共通の趣味があって、そこから意気投合した記憶があります。
水野:細谷さんは、本好きな少年だったとお伺いしましたが、幼少期はどのように過ごされていましたか?
細谷:小中学生の頃は、「二宮金次郎」というあだ名で呼ばれるぐらい、本ばかり読んでいましたね。さらに中学以降、ラジオやポッドキャストを聴くようになって、のめり込んでいった感じです。徐々に「もっと音声コンテンツの魅力が日本で広まっていったらいいな」という気持ちも強くなっていきました。
水野:板谷さんはどういったところから映像に興味を持たれたのでしょうか。

板谷:僕の場合は少し特殊でして、ガジェット好き、家電好きというところがきっかけでした。小学3年生のときには、自腹で扇風機や空気清浄機を買っていましたね。とにかく白物家電が好きで。そこからカメラが好きになって、歌や写真も好きになって、興味がパソコンに移っていって、表現したいことの技術的な部分がちょうど重なったのが映像だったんです。そうやって映像編集制作に出会った感じですね。
水野:細谷さんは、ご自身が影響を受けたラジオなどではなく、なぜAIを使った音声コンテンツという分野に注目されたのですか?
細谷:大学時代にマイクを買って、ポッドキャストを編集して配信するようになったところが起業の始まりで。でも、なかなか厳しい世界だなと感じまして。ビジネスとしてやる上では、直接そこに携わるのではなく、近しい領域で音声の魅力を活かせるコンテンツがいいなと。また、時代の流れのなかでAIは必ずキーになると思っていたので、それをクリエイターの方を支援する形で活かしてビジネスを作っていきたいと考えていました。
水野:そのなかで、絵本やボイスコミックといった分野にチャンスがあると思った理由というと?
細谷:今の時代、テレビから動画配信サービスに、マンガも紙からアプリで読む時代になってきているじゃないですか。でも実は、子どもむけの作品は、まだまだ紙媒体が主流だと考えていまして。とはいえ、共働きされる方が増えていくなかで、やっぱり紙の本をめくる機会は減っていく。やがてここもデジタル化することが、ひとつ課題解決になるのではないかと思ったんですよね。

水野:実際に子どもを育てていると、たしかにまだ絵本は紙が多い。一方で、もう2~3歳の段階で、スマホやiPadのデジタルコンテンツをシームレスに楽しんでいる世代だとも認識していて。やはり「チャンス」ですよね。難しさはどういうところにありますか?
細谷:水野さんのように子育てをされている方々からすると、おそらく寝る前はスマホを見せたくないじゃないですか。そこはまだまだ紙のほうがいい。他の面で、デジタルだからこその魅力や利点を活かして、子どもむけの作品を届けたし。すると、“どの時間を取らせてもらうか”が難しいなと思っています。
水野:映像作品は、そもそも画面上で流れるものですよね。板谷さんは何をいちばんのハードルに感じますか?
板谷:弊社の場合、受託でクライアントさんの表現したいことを、いかにうまく伝えてあげられるかというところが勝負で。ただ、CGや実写、本当にいろんな表現方法がある。なおかつ、その表現方法が日に日に増えている。パラメーターが無限にあるので、お客さんにとって最適な手法を、自信を持って選択することが難しいなと感じますね。
水野:たとえば、僕らアーティストから、「ミュージックビデオを作ってくれ」と依頼されたら、まずどのようなコミュニケーションを取るのでしょうか。

板谷:いちばん多いのは、依頼されたご本人と直接お話させていただくことですね。「こういうものが作りたい」と明確に決まっているときには、それをどういった表現に落とし込んでいくか、確認を取りながら進めていきます。また、直近のケースだと、社員さん20名ぐらいに集まっていただいて、インタビューをして。「ここが足りてない」「こうアプローチしたい」などの問題を洗っていくところから伴走させていただく形もあります。
水野:映像作家というより、全体をプロデュースするんですね。
板谷:そうですね。作家性を出していくというより、あくまで我々が得意な表現方法を使いながら、それぞれの利益を最大化していくという作り方をしています。
細谷:逆に水野さんは依頼するとき、気をつけていることはありますか?
水野:言いすぎないことですね。「何が作りたいですか?」と訊かれたとき、もちろんイメージを伝えますが、それが細かければいいわけではないと思うんです。本職の方に比べたら、僕は映像の技術も知識もない。何ができるのかもわからない。そういう状態でアイデアを言いすぎてしまうと、相手の方の能力をすごく狭めてしまう可能性があって。相手の方の知見が最大化されるヒントを、どのように出すか意識しています。
板谷:ものすごく理想的なお客さまです。そういったところまで配慮していただくのは難しいだろうな、と思いながらコミュニケーションを取っているところもあるので。
伴走者であろうとする姿勢の理由

水野:おふたりとも、自分の表現を強く出すタイプではないですよね。それよりも、「クリエイターの方が作りたいものをうまく具現化させたい」とおっしゃる。その伴走者であろうとする姿勢の理由は何でしょう。
細谷:私、実は三つ子でして。
水野:えええ!

細谷:私は一応、次男なんですけど、兄がとても優秀で。だから自分はわりと受け身なのかもしれません。ひとを見て学ぶ姿勢は、兄の背中を追いかけているときに形成されたのかなと。今、ふと思いました。
水野:たしかに、育ってきた環境は思考回路に影響を与えるかもしれないですね。板谷さんはいかがですか?
板谷:僕は、何か自己発信できるものを持っているのであれば、やりたかったですね。細谷くんを含め、まわりの起業家は、「将来、社会をこうしたい」という思いを持っているひとが多くて。やっぱりビジョンを持っているひとは強いなと。僕が映像を始めたのは、映像が好きで、映像を作っているのが楽しくてというところからだったので、いわゆる“ビジョン先行型”ではないんですよ。そこにもどかしさを感じている面もあって。
水野:なるほど。

板谷:でも最近、我々の事業整理をしていて、今まで作ってきたものを振り返ったとき、「現状、まだ見えない未来のビジュアルを見せるようにしていく」というお仕事が多いことに気づきまして。実現していない都市とか技術とか。なおかつ、やっていて「楽しい」と感じる。ならば、「自分は、ビジョンを持っているひとが夢を実現するための橋渡しをするんだ」と振り切ったほうが、自分のやる意味がより明確になると思いました。
水野:目の前のものづくりが今後、どういうストーリーを生み出していくか。社会にどう影響していくか。受け手にどれぐらいインパクトを与えていくか。そうやって“線”で捉えられるのが起業家である気がして。多分、おふたりともそのスタイルが合っているのだと思います。また、一緒にプロジェクトも進められているそうですね。
細谷:弊社からお声をかけさせていただいて、「ぷかラボ!」というYouTubeチャンネルで、3DCGを使った子ども向けのアニメーション制作を行なっています。0歳から2歳ぐらいのお子さんに楽しんでもらえる歌の動画とか。私たちが考えたオリジナルキャラクターが、その世界で暮らす様子をASMRに近い観察動画のようなものとか。そういうものをお届けしたいなと。
水野:AIで作るときの難しさはどういうものがあります?
細谷:まず、思い描いていたものを一発で出すのが難しいところですね。また、AIでクリエイターを組んだわけではなくて、クリエイター支援のためのAIという立ち位置にしているので、そこの理解をしっかり得たり。著作権まわりなどの法律面をクリアしながらやっていくというところに気を使ったり。
AIに代替されないもの

水野:AIで作った映像と、人間が作った映像の差異は何だと思いますか?
板谷:AIが出してくる絵は、いろんなひとの知見を平均的に学習したデータなので模範的で。だから、「このひとが作ったから、ここがすごく細かくこだわられていておもしろい」みたいな高揚感はないですよね。人間にはそれぞれ癖や得意不得意があるからこそ、作品に“そのひとらしさ”が滲み出る。そこの魅力はAIにはなかなか代替されないんじゃないかなと思っています。
細谷:水野さんは以前、「AIではなく人間のクリエイターが持っているものは“偏り”だ」と話されていましたよね。
水野:そうなんですよね。偏りがあるかどうか。そして、動的であるかがAIとの違いだと思います。生きている人間は動的な存在で、過去・現在・未来を厳密には区別できない。そのなかでものづくりをしていると、永遠にうねっている存在なんですね。0と1の信号の集積だと、デジタルって厳密にいうと停止した一瞬の連続だから。昨日の僕と今日の僕が作る曲は、おそらく少し違うじゃないですか。心身の調子も違うし、昨日と今日の間に出会ったひとによって考え方が変わっているかもしれない。
細谷:なるほど。
水野:つまり、過去の集積とも限らない、偶然性に左右される状態が人間の強みだと思うんですよ。それを、統計の計算上で解を出すAIはどこまで表現できるのか。さらに自分の知識にもアウトプットにも偏りがあって、その偏りも変化していくので、計算しきれない。となると、AIが出す解とはどうしても差が出てくるのではないか。ただ、AIの進化でその差が縮まっていく可能性はあって。そうするとAIと人間の違いがわからなくなっていくのかな。
細谷:AIが意図的にランダム性を獲得することはできるでしょうけど、人間の偏りとは違う気がしますね。

水野:AIは、偶然性を演出することはできても、本当の偶然って難しい気がしますね。たとえば、曲を作っていて佳境になったところで、「パパー!これ見てー!」ってうちの息子が作業場に入ってきたり。宅配便が届いたり。そういうことでAの方向に進むはずだった曲が、Bになることって頻繁にあるんですよ。そういう偶然性を取り込んでしまうのが、人間である気がして。きっとクライアントさんとのやりとりのなかでもありますよね?
板谷:あります、あります。私もゼロからプランを考えていたとき、「その日に何が起きたか」とか「そのアイデア出しをどこでやっていたか」とか、そういう要因によってアウトプットがまったく違ったので。そこに人間のおもしろさはありますよね。
細谷:私はラジオの魅力って、空間と秘密を共有することだと思っているんです。部室で聴いている感。それは人間にしか出せないものなのかなと。それこそライブツアーの裏話などをラジオでされると、ここでしか聴けない話みたいでワクワクして。結果ではなく、人間のプロセスで生まれたものを楽しめる場。だからこそ音声はおもしろいし、AIに完全に代替されることはない気がしています。
水野:そうですよね。創作物以外で派生するプロセスは、AIがイメージするのは難しい。…これはあと3時間くらい語りたいですね(笑)。細谷さんは今後、VoiceCastをどう展開していきたいと考えられていますか?
細谷:やはりAIの時代の流れは不可逆で変えられないものだと思います。でもそのなかで、クリエイティブの魅力や、人間がなすべきことの価値を会社として追求していきたいです。
水野:板谷さんは映像作家として、IDENCEという会社をどう広げていきたいと考えていらっしゃいますか?
板谷:驚きや感動で終わらせずに、社会の未来を動かす力にしていきたいと思っています。六本木ヒルズ第二ができる、みたいな噂ありますよね。そういう話を聞くと、ワクワクするんです。だからこそ、東京、日本を元気にしていく未来実現のための橋渡しとなるような映像の使い方をしていきたい。Future Scape Design™という名前のサービスを、ここから大きくしていきたいですね。

水野:やっぱりふたりとも未来が好きなんですね。そしてまさに部室感のワクワクがあります。もちろんお仕事をされている精度になっているけれど、そのマインドは大事ですよね。
板谷:僕らが今、コンテンツの会議をやっているときも半分そんな感じですよね。
細谷:そんな感じですね。今作っているキャラクターは、ドーナツをモチーフにしているんですけど、「これ、ドーナツ食べながらやったほうがおもしろくない?」って、ドーナツを買ってきて食べながらやるとか。
水野:その明るいテンションが、ものづくりにつながっていく気がします。では最後に、おふたりから、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

細谷:私自身、クリエイターと呼べるような存在ではありません。絵は棒人間しか描けないし、歌も音痴で、中2以降カラオケにも行ってなかったりします。だからこそ、クリエイターの方々にリスペクトがある。そういった方が輝ける土台を、ビジネス側から支援できる会社にしていきたいなと思っています。
板谷:中高生の頃からクリエイターを目指してきましたが、どうすれば自分の作りたいものを作って、ひとに認められて、求められる形になるのか、最初はまったく想像がつきませんでした。でも大事なのはやはり目の前の課題をひとつひとつクリアしていくこと。それを諦めずに続けた結果、なんとか私も少しずつ突破口が見えてきている気がします。明るい気持ちで未来を見て、一緒に創作できるクリエイターが増えていくと嬉しいです。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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