青羽 悠 第4回

どこに行きたいかというより、どこに繋がっているかを知りたい。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。
青羽悠(あおば・ゆう)

小説家。2000年愛知県生まれ。京都大学総合人間学部在学中。2016年、小説すばる新人賞を受賞。『星に願いを、そして手を。』で集英社からデビュー。16歳での同賞受賞は史上最年少となる。

編集者の仕事って、調子に乗らせないこと。

水野:するする書けすぎちゃうときってあります?

青羽:「行けてる!」ってなって、翌朝見返して、「ダメだぁ!」って。水野さんはどうですか?

水野:するする行けるときは、ダメだってわかっているから、するする行こうとする。

青羽:60点はできるみたいな?

水野:いや、ちょっと違うかな。「今、行けてる感じだ!調子いいぞ!」ってなったときにこぼれるものもあるんですよ、やっぱり。

青羽:こぼれるっていうのは?

水野:テンションがグワーッて上がっていって、イケイケになっているからこそ、こぼれていくいいところ。それは拾っておきたい。だけど、完成度は絶対80%だってわかっているんですよ。このテンションでいくと、あとから聴いて反省するやつだってわかっている。

青羽:はいはいはい。

水野:ただ、このテンションじゃないとこぼれないものもあるから、それだけは拾って倒れよう。

青羽:あ~。なるほどなるほど。それをベースにというか。

水野:そうです。冷静な目で見て。急に審判の顔になって。

青羽:「わかるけどね」みたいな。

水野:そう。「気持ちはわかるよ! 盛り上がっちゃったんだろ、お前」って。

青羽:そういうところを編集者に削られてばっかり。編集者の仕事って、調子に乗らせないことだなぁって。

水野:ご自身で推敲は結構するタイプですか? そういうの苦手なタイプですか?

青羽:時間を置かないとどうしようもない節があるけど。できあがるのが締め切りの3日前とか、直前とかなので、「ごめん!」とか思いながら…。1回その編集者を信じて、「削ってくれ!」とか、「のちの僕が削るでしょう」とか。それはある程度やり取りに時間を取れる小説だから、っていうのもあるかもしれないです。

水野:なるほど。

青羽:僕、1回言われたことあります。「書く力はあるけど、削る力がない」って。

水野:うわぁ辛辣。でもいちばん本質をついているかも。

青羽:そう、そうなんですよね。

水野:今、一緒に反省しちゃったもん。多分いろんなパターンの方がいらっしゃるんだと思うんです。たとえば、完成品じゃないと見せたくないってひと。繊細に、盆栽のようにやって、見てほしいタイプ。あとは、とにかくわーって書いて、「今この状態です。とりあえずここからスタートしましょう」ってタイプ。

青羽:僕は後半のタイプですね。やっぱり自分だけでは完成できない。もちろん僕のなかで100点は出るんですけど、それは他者にとっての100点じゃないというか。いろんなひとに見せる上でのベストでは絶対ない。だから結構、甘えちゃうというか、預けちゃうのは多いですね。音楽だと言ってくれるひとはいらっしゃるんですか?

水野:いますいます。けど、聞かないかもな、あんまり。

青羽:それも一緒の悩みです。「削っていただくのが仕事で」とか言ったけど、実は削られると、「うー」って。

水野:まぁそこに迷いがないのもどうかと思うし。削らなきゃいけないのはわかっているんだけど、じゅくじゅくとした気持ちになるっていうものがないと、逆にね。あと最初、「小説ってひとりの作業ですよね」って話をしましたけど、他者の視点があることに対して、受け入れているんだなぁと思いました。

青羽:うーん。

水野:難しいか。

青羽:受け入れざるを得ないというか。力は借りないといけないし。何に価値を見出すかって本当に難しいですよね。僕はずっと自己満足で作ってきた節はあるんですけども。やっぱりそれだけではない。ひとりだけだったらここまで書いてないなとか思ったりするので。どこに置くかって、難しいなって思ったりします。

小説を書かないと体調を崩す。

水野:めっちゃ答えづらい大きな質問なんですけど、何のために書いていると思います?

青羽:何のために。

水野:まぁわからないですよね。

青羽:うーん。それこそ本当に気持ちが下がっていると、「これだけ世の中にいっぱい本があるのに、今さら自分が1冊書く意味って何なんだ?」とか思ったりするし。でもひとつわかっているのは、小説を書かないと体調を崩すんですよ。

水野:おもしろい! なぜ?

青羽:本当にコンディションが悪くなる。「お前は小説も書いてない」みたいな気持ちになって、気分が落ちちゃう。今の自分にとって、立脚するところというか、ここは頑張りたいと思っているところなんでしょうし。書くことは必要だとは理解している。自分は今、まだまだ書かなきゃいけないなって気持ちはすごくありますね。

水野:書く作業自体が自分を支えているという認識があるということですね。

青羽:多分そうだと思いますね。早い段階で小説ってものがかなり自分に食い込んできて、自分が固まっていったから、なかなか小説を抜くこと難しいんじゃないかな。読み手がいなくても、何かしらは書いているんだろうなって。極論そういうことを思いますね。

水野:それは幸福な道でもあり、不幸せな道でもある。

青羽:呪いじゃないですか。

水野:でもそうですよね。いいですね。これも意地悪な質問ですけど、小説以外のものに取って代わられる瞬間はありそうですか? それこそ今回、音楽ってものがセットで作られていったけれども。

青羽:あり得るだろうなとは思います。ただ、今ではない。多分それを、小説を書き続けて、確かめているんだろうなって。さっき大きな目標がないって話はしたんですけど、一方でこの小説がどこに繋がっているのかは知りたい。どこに行きたいかというよりは、どこに繋がっているかっていう意味で書いているかなぁ。どうして音楽を作り続けられているんですか?

水野:自分で聞いておいて、自分はわかってない。

青羽:みんなわからないものなんですかね。

水野:でも本当、作ってないと調子が悪くなるのはすごくよくわかります。

青羽:作れないときとかあるんですか?

水野:ずっと作れないです。でもパズルを解いている感じはずっとあるから。曲を作って、考えることで脳を動かしているのかなぁ。だから曲という、おもちゃみたいなものがなくなっちゃうと、回転が止まっちゃってツラいみたいな。

青羽:わかる。ボーっとしちゃうんでしょうね。虚脱というか、何というか。

あれに勝るものはない。

水野:だって何か他に趣味あります?

青羽:わかるなぁ。趣味…。

水野:でも音楽もやられているんですもんね。

青羽:今はもうだいぶ遠のいちゃって。音楽も趣味だったはずなんですけど。なんか難しい。0か100か。

水野:なんかわからないけど、このコーナーに登場するひと結構みんなそれ言う。趣味がない。

青羽:趣味を趣味として捉えてなくて、構造を見ているひと多いんじゃないかな。

水野:本当できないですね。

青羽:どこか旅行に行くとか。

水野:そうそうそう。何が楽しいの?って。

青羽:「今楽しいかな?」とか思った瞬間、「ダメダメ!」って。

水野:俯瞰して考えちゃうから。ダメですよね。俯瞰グセがついているのかもしれない。

青羽:うーん。それはクリエイターというか、ある種のひとには必要なんでしょうけど。とくに小説は作り終わるまで長丁場だし、最初から最後どうバランス取るかみたいなのは俯瞰以外の何物でもない。けど、どこかで没頭する瞬間も必要みたいな。バランスを取りながらですよね、きっと。

水野:俯瞰しがちなひとにとっては、いちばんおもしろい対象なのかもしれないですね。俯瞰と主観を行ったり来たりするから。

青羽:そうですよね。小説を書いて感情は高ぶりました?

水野:ありましたねぇ。おもしろい。

青羽:あれは自分にとって気持ちのいい時間というか。わりとトランス状態になっているような気もしますけど。そういう瞬間がたまにあるから、それはいいのかなみたいな。結局のちに書き直すんですけど、その興奮を感じながらやっているときもありますね。

水野:多少麻薬的なところがあると思いますね。

青羽:ですよね。あれに勝るものはないんじゃないかみたいな気持ちで書いている節はあるかもしれないです。

水野:そういうものに出会っちゃうのは大事なことですよね。

青羽:たしかに書く理由、作る理由にはなりますね。

水野:話がそれちゃうかもしれないけど、有名な人気お笑い芸人の方が、有名な人気者になりたいと思って、芸人になって。売れて、お金も入ってきて、自分が欲しいもの買えるようになって、女性にもモテて。そうやってすごくいろんな経験ができたんだけど、「舞台上でおもしろいことを言って、バッってウケたときの快感に勝らないんだよね」って言っていて。それはすげーなと思って。

青羽:ひぃー!

水野:そうか、そうなんだって。でもそういうものに出会うと、強いですよね。作品に対しての没頭であったり。

青羽:それ以外は副産品ってひともいるんでしょうね。

水野:これからもその快感が何度も訪れるといいのか、苦しいのか、わからないけど。

青羽:当面はそれを求めてやっていこうかなと。

水野:たどり着く先がどこかわからないっていうのはすごく正直な声ですね。

青羽:でもそうですね。そこで気負う必要はというか。難しいですね。売れたいって思うのが正解なのか。本当に悩んでいるところです。

水野:行った先を見てみたいですけどね。めっちゃ違うひとになっているかもしれない。それはそれでおもしろいですよね。人間だなって思うし。

青羽:まだまだ変わっていくんでしょうね、きっと。

水野:そんなわけでございまして。ぜひ次回作できたとき、「何か違うものに出会いました」ってとき、またお話を聞かせていただきたいなと。

青羽:報告しに来ます。

水野:今日は作家の青羽悠さんにお越しいただきました。ありがとうございました。

青羽:ありがとうございます!

文・編集: 井出美緒、水野良樹

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