青羽 悠 第1回

音楽から感情の大きさを受け取って物語を書く。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。

言葉を意識したのは、作詞が好きだったから。

水野:さぁ小説家Zです。このコーナーは、小説家の方、作家のみなさんに、「どのように物語を書いているのか」ということをざっくばらんに伺っていくコーナーです。今日は、最新作『青く滲んだ月の行方』を目の前にしながら。作家の青羽悠さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

青羽:よろしくお願いします。

青羽悠(あおば・ゆう)

小説家。2000年愛知県生まれ。京都大学総合人間学部在学中。2016年、小説すばる新人賞を受賞。『星に願いを、そして手を。』で集英社からデビュー。16歳での同賞受賞は史上最年少となる。

水野:今回、青羽さんをお呼びしたのは、作品のことももちろんなんですが、『青く滲んだ月の行方』の各章に楽曲が。

青羽:ついてますね。

水野:私も、『OTOGIBANASHI』という、作家のみなさんに詞を書いていただいて、僕が曲をつけて歌っていただくという企画をやりまして。これはもうお話を聞かざるを得ないなと。仲間みっけちゃったなと。そもそもこの音楽を一緒に作るみたいな企画はどういうところからスタートされたんですか?

青羽:もともとavexさんと講談社さんで動いていた企画に呼んでいただいたのがスタートで。ただ、僕は前に『凪に溺れる』っていう本で作詞をしてみたりしていて。作詞にはすごく興味があったので、仕事のスケジュールにわりとねじ込みました。「やります!」って。

水野:音楽とか作詞に積極性がある理由はどこにあるんですか? 文章と詞って、はたからはだいぶ遠いようにも見えるんですけど。

青羽:僕が言葉を意識したのは多分、作詞が好きだったからなんです。音楽を聴いて、歌詞を考えて書くみたいなことも実はちょこちょこやっていて。すごい昔のメモとかが出てきたりして。そこは意外と不可分というか。最初に音楽で気持ちが高ぶって、そこから言葉が出てきたというケースで。

水野:へぇー。

青羽:でも音楽はあまり作れなかったので、結実したのが小説って形だったんだろうなって今振り返れば思いますね。

水野:青羽さんを小説で知ったひとのほうが最初は多いだろうから、小説からスタートしたんじゃないかって思いがちだけど。実は歌詞のほうでご自身の創作をスタートしたんですね。

青羽:もちろんそんな世には出てないですけどね。ただ、音楽を聴いて、物語を考えるのは今もやることです。今作の各章のタイトルが曲になっていますけれども、前の作品も実は各章もとの曲があって、その曲名をお借りして、そこから小説を書いたりしていて。結構、自分のなかで密接ですね。

アルバムの後ろから2番目とか3番目にある曲。

水野:物語を考えるときに、音楽からどうヒントをもらうんですか? 繋がる過程がブラックボックスというか。

青羽:そうですよね。そんな具体的に繋がっているわけじゃなく、音楽って強烈な感情のうねりがある印象があって。その感情の大きさをそのまま小説にしたいというか。「小説として表したい、形にしたい、アウトプットしたい」っていう気持ちを多分、音楽で作っているんだろうなって。逆に言えば、恋の曲を聴いたから、恋愛ものを書こうとかはならないんですけど。感情の大きさを音楽からバツーンと受け取っている気はしますね。

水野:論理的に繋がっているのではなくて、その熱量を音楽によって点火させて、グワーッてできたものの出口が小説になっているみたいな。

青羽:そんな気がしますね。音楽を聴かないと調子が悪いですもん。

水野:なるほど! すごい。エンジンがかかりやすい音楽とかかりにくい音楽ってあるんですか? 激しめの曲を聴いたほうがその熱量を保ちやすいとか。もっとジャンル的なものであるとか。

青羽:難しいなぁ。インディーズバンドとか聴くと燃えます。

水野:おー、何が違うんだろう。

青羽:ぐんぐん上がっていく感じ。絶対に作っているひとも不安なんだろうけど、「やってやるぜ」ってなっているとか。多分、音楽を作るときの元になる感情がある曲とない曲があるんですよね。たとえば、テンポとかノリとかが先行している曲。それも軽やかだし、聴きなじみがあっていいんですけど。一方で、アルバムの後ろから2番目とか3番目にある曲が結構、バツーン!みたいな。

水野:はいはい、わかります。

青羽:ストリーミングサービスではあんまり再生回数伸びてない。だけど、「やっぱりこのアルバムはこれだろ!」みたいな気持ちになる曲。

水野:曲の背景にある作り手の、「ここから世に出ていってやるぜ」って熱量であったり、「今俺はこれを言いたいんだ」ってパワーみたいな。それが曲を透けて通っていって、青羽さんに響いているんですかね。

青羽:かもしれない。なんかこう…滲むものというか。もちろんいろんな曲を聴くんですけれども、物語を書くときは、そのエネルギーを借りているような。

水野:はいはいはい。

物語と歌詞のスタート地点が一緒だった

青羽:今回、小説は曲と物語、一緒に作っていたんですけど。

水野:あ、一緒に作ったんですか。

青羽:作詞と物語はわりとそうです。どっちが先って感じではなかったような。一緒に進んでいた気がしています。感情の大きさとか、必死さみたいなのは意識していましたね。

水野:月並みな考え方で言うと、僕らの世界ではタイアップっていうのがよくあるんですよ。ドラマとか映画とか、先に物語があって、イヤな言い方すれば、そのイメージソングを書くみたいな。

青羽:そうなりますよね。

水野:その作り方は体感として理解できるんです。軸があって、テーマがあって。でもこれ難しいところで、悪いタイアップソングというか、間違っちゃうときって、沿いすぎちゃう。主人公がこういう感情になったから、それをそのまま書いちゃうみたいな。すると、ただの付属品でしかなくなっちゃって。

青羽:ただの解説というか。上回るものも絡み合うものもない感じ。

水野:そう。カラオケビデオみたいな感じになっちゃうからそれはよくなくて。作品を受けて感じたこと、この軸の部分が響き合うといいタイアップソングになるって、なんとなく経験として思っているんですよ。

青羽:なんとなく…わかりますって言えないですけど。あぁやっぱりそうなんだって感じはしましたね。

水野:それで『青く滲んだ月の行方』に戻るけど。物語を書きながら、なおかつ詞を書いているって、どういう状況なんだろうって。頭のなかで整理はできているんですか? 小説のなかで使うフレーズとか。登場人物にこのセリフを言わそうとか。こんな感情を書こうとか。そういうものがあったとして、それをそのまま詞にぶつけてもいいけど、うまくいくとも限らないじゃないですか。

青羽:そうですね。逆にそれは沿いすぎちゃう。今回ある意味うまくいった部分もあるなっていうのは最初に、「こういう感じでお願いします」って曲をオーダーする機会があって。そのときには物語も詞も書いてないんですけど、コンセプト文みたいなのを用意したんですよ。感情をうまく伝えられるような文章をお渡しして。それを受けて楽曲を作ってもらうし、僕は小説を書く。で、小説を書き終わるくらいに楽曲もいただいて、作詞する。

水野:うん。

青羽:そのときに見るのはどちらかというと、物語というよりは、最初のコンセプト。コンセプトがあって、物語のなかで補強されているイメージを、歌詞に落とす。そういう作業をしていたので、物語と歌詞の両方の前にあるイメージがいちばん大事だったんだろうという気はしていますね。

水野:じゃあ結果、出口で小説になったものもあれば、歌詞になったものもあるんですね。要はお互い同じところからスタートして、ある種、兄弟のような。

青羽:本当にそうですね。そのスタート地点が一緒だったら、向きは逆でもいいかなって思って。180度ずつズレた向きで出ても、最初の地点が一緒だから、ある程度は通じるものがあるんじゃないかと。どうやって寄せるかは、それこそさっき言っていたタイアップの概念にも近いのかなと思いますけど。スタート地点が一緒っていうのが、ひとつすがるべきところというか。そんな気がしていました。

文・編集: 井出美緒、水野良樹

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