ここ1年ぐらいで、「死が怖い」って思うようになった
HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。
「怖いものある?」って聞かれて
自分の死以上のこと。
水野:あえて先輩面をすると、曲を書いているときに結構「死」をテーマにしていたんですね。「過ぎ去っちゃうなぁ。自分も死んじゃうんだなぁ」って思って。まぁ「死」って終わりがあるから、それに向けて頑張っていこう、それまでの時間を充実していこう、って考えで歌を書いていて。でも、結婚して子どもができたあたり。結婚したぐらいがとくに大事だったかな。まわりの家族に不幸があったりして、受け継いでいる感があったの。
柿原:なるほど。
水野:「あら、自分が死んだあとも、世の中はあるんだな」ってことに気づいたんですよ。それは作品を書く上ですごく大きくて。
柿原:たしかに。
水野:「死が怖い」っていうのは、やっぱり自分の人生を考えているじゃないですか。
柿原:はい。めっちゃそうですね。
水野:今、僕も死は怖いんですよ。もちろん病気になるのも怖いし。でも、もうひとつ怖さというか、不安があって。「俺が死んだら、息子はどうやって食っていくんだろうな」っていう。世の中のお父さんお母さんみんな思っていることだと思うんだけど。あとの世代の心配、自分の死以上のことを考えていることが増えてきて。それって死を考えるときに結構、大事だなって。
柿原:なるほど。
水野:そのフェーズが多分いつかやってくるんじゃないかな。
柿原:そうですね。今、自分のことしか考えてない。
水野:でも前の僕もそうだったし。もちろん家庭を持たない方もいるから、違うパターンもたくさんあると思うんだけど。いろんなパターンで自分以外のことを考えるタイミングがくると思うんですよね。
柿原:そのときに書くものも変わりそうですね。
水野:僕は明らかに変わりましたね。
柿原:すごいなぁそれ。大きい部分ですもんね、自分の内面にとって。
「あぁ水野さん感じてそう…」って
水野:そうですねぇ。柿原さんは、これから何を書きます? まさにスタートラインに立った感じだと思うんですけど。
柿原:お話したとおり、自分の悩みが半分ぐらいで書いたところもあったので、両方できるようになりたいなと思います。めちゃくちゃエンタメが書けるようにもなりたいですし、純文学よりのものも書きたいですし。自分が書きたいときにそれを書けるように、とにかくいっぱい書きまくって、掴んでいきたいですね。「書きたい。これを遺作にしたい」って思ったときに、最高傑作ができるように頑張りたいなっていう感じです。
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水野:文章でとどまりますかねぇ。
柿原:どうなんでしょうね。自分でもちょっとわからないですね。
水野:映像っていう文脈も持っているから、行き来をされるんじゃないかなと、傍からは思っているんですけど。
柿原:水野さんはどうですか? 小説も今後も書かれますか?
水野:はい。書きたいです。
柿原:それってご自身のなかで、何欲が違うんですか?
水野:もう最近、整理がついてなくて。でも意外と同じなんじゃないかって感じはしていて。最初は明確に分けているつもりだったんですけど、書いていくうちにすごく近いものだなって思ったし。あと、小説家の方が書かれた歌詞に曲を書かせていただくみたいなことも経験させていただいたんですけど。
小説家とアーティストが出会い、新たな「物語」が生まれるーー 小説家の「歌詞」から生まれた5つの小説と楽曲。 収録作品 <小説> 「みちくさ」彩瀬まる 「南極に咲く花へ」宮内悠介 「透明稼業」最果タヒ 「星野先生の宿題」重松清 「Lunar rainbow」皆川博子 <楽曲> 「光る野原」彩瀬まる×伊藤沙莉×横山裕章 「南極に咲く花へ」宮内悠介×坂本真綾×江口亮 「透明稼業」最果タヒ×崎山蒼志×長谷川白紙 「ステラ2021」重松清×柄本祐×トオミヨウ 「哀歌」皆川博子×吉澤嘉代子×世武裕子 作曲・Project Produce 水野良樹
柿原:はい。
水野:そのときもやっぱり、音楽の人間としてそこに向き合ったけど、詞から浮かび上がるものがあったので、すごく近いところにいる気がするんですよね。そんなに境目はないんじゃないかと思ったりもして。だからこそ柿原さんも、ご自身のなかで表現方法としてふーっと近づくときがくるんじゃないかなと。
柿原:今は目の前の小説に精一杯ですけど、「こっちもやってみよう」って余裕が生まれてきたとしたら、やるのかもしれないですね。「自分で書いたものを映画にしてみよう」って。今はその体力がないですけど。
水野:見てみたいです。それはやっぱり柿原さんじゃないとできないことじゃないですか。いくつもの文脈を持っているひとだからこそ、それを繋ぎ合わせることもできる。そこは1ファンとして見てみたい。
柿原:ありがとうございます。嬉しいです。
水野:こんなこと言ったらおこがましいですけど、お互い書き続けたいですね。で、また何作か書いたあとにね。
柿原:作家としては同級生なので。
水野:本当に本当に。同志ですよ。嬉しいなぁ。しかも別の文脈からスタートして。それで何作か書いたあとに、「こんなふうに思いましたよ」っていうことをまた話せたら、それもおもしろいだろうし。
柿原:あともう1個伝えたいことが。水野さんの小説で、居酒屋で飲んでいて、ひとりがチヤホヤされているシーンがあって。そのいじられているのを見て、なんか寂しい気持ちになる自分がいるって、わかるなぁと思って。自分が話題の中心にいないことの寂しさみたいなのも、「あぁ水野さん感じてそう…」って読んでいました。
水野:すげぇ見透かされてる。
柿原:改めて、経験からしか書けないことってあるんだなと思いました。今後も読ませていただきながら、自分も書いていきたいなと思います。
水野:最後、褒めていただきまして。見透かされている感じで。またぜひ、次回作を書いたらお話させていただけたらなと。
柿原:ぜひ。交換会を。
水野:交換会しましょう! これからもよろしくお願いします。
柿原:よろしくお願いいたしします。
水野:ということで、小説家Z、今日のゲストは最新作『匿名』を出されたばかりの柿原朋哉さんにお越しいただきました。ありがとうございました。
柿原:ありがとうございました。
文・編集: 井出美緒、水野良樹