キャラクターに試練を与えて、それに対して動いた結果を紡いでいく。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、マンガ家の丸山恭右さんです。現在、累計部数570万部を突破した『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』を連載されています。

丸山恭右(まるやまきょうすけ)
1993年2月17日生まれ、静岡県出身。武蔵野美術大学油絵学科卒業。2015年に読切『アシュリー=ゲートの行方』が少年ジャンプ+に掲載されデビュー。その後も作品を発表しながら、2018年にCygamesへ入社、漫画事業部の作画スタッフとなる。サイコミで連載をスタートさせた『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』がヒット作に。同作は2024年5月に「世直し編」が完結を迎え、同年6月に新章をスタートさせた
「これほどの気合を見せてくれた作家はいない」

水野:マンガは子どもの頃から好きだったのですか?
丸山:大好きでしたね。最初のきっかけは、父が『ONE PIECE』の単行本をもらってきたことで。そこから『週刊少年ジャンプ』を買って読むようになりました。マンガ家になりたいと思ったのは、『バクマン。』を読んだ影響が大きかったです。僕は今、作画担当という形で作品を描かせていただいていて。『バクマン。』もまさに作画担当と原作者がコンビを組んでマンガを描くというストーリーなので、僕自身にも重なるような内容なんですよね。
水野:最初はどういうマンガを描きたいと思っていましたか?
丸山:いちばん最初にもっともハマったマンガが『DEATH NOTE』で。当時の中二心をものすごく刺してくる作品だったんです。だから、ああいうシリアスで深みのあるマンガを描きたいとよく思っていました。でも、実際にはなかなか作れなくて。長らく苦戦をしていましたね。
水野:どういうルートをたどって、キャリアのスタートラインに立ったのでしょうか。

丸山:僕はもともと進学校を志望していたんですけど、授業中にサボって絵を描いていて先生に怒られるようなタイプで。そのせいで成績もあまりよくなくて。先生に「このまま志望校を目指したら落ちるからやめておけ」と言われたんです。そこで、「じゃあもう美術高校に進む。もう自分は絵の道に行くんだ」と踏ん切りがつきました。ある意味、覚悟が決まった瞬間でもあったと思います。
水野:丸山さんが最初に選ばれたのはどういう学科だったんですか?
丸山:油絵学科でした。憧れた作家が『DEATH NOTE』を描かれている小畑健先生だったので、いちばん絵が上手くなりそうな学科を選ぼうと思ったんですよ。凄まじい画力を手に入れることができたら、もしかしたら小畑先生みたいになれるんじゃないかと。そこでしっかりデッサンを学びましたね。そのデッサンがマンガを描く上で基礎になっていて、応用としても活きています。
水野:格闘シーンを描くために、実際の格闘をどれぐらい参考にするものですか?
丸山:映像などの資料も集めますし、個人的にジムにも通ってキックボクシングをやっています。最近、試合があってボロ負けしてしまったので、あまり胸を張って「強いです」とは言えませんが(笑)。
水野:実際に体験してみると、絵に活きます?
丸山:ものすごく活きたんですよ。「何も知らないときには、パンチしたときの絵に腰が入っていなかったな」とか、「この攻撃に対して、こうは動かないんだな」とか、細かいところに出てくるなと思います。昔から、感覚で物事を理解することが苦手で。理屈で理解できると、ちゃんとアウトプットができるようになるんですよね。
水野:どういう流れでデビューされたのですか?
丸山:僕は苦労したタイプで、デビューまでに6年半くらいかかっています。いちばん最初は持ち込みでした。もう気合がすごくて、1年以上をかけて1作を完成させて、「これを出したら世の中がひっくり返るぞ!」みたいな気持ちで出版社に持って行ったんですよ。そうしたら、編集者の方に内容は厳しくダメ出しをされてしまいました。でも、絵の部分においては、「これほどの気合を見せてくれた作家はいない」と。
水野:すごい言葉じゃないですか。
丸山:そこで初めて、本気を出せば何かしらの傷跡は残せるかもしれないという感覚を掴んだ気がします。

水野:丸山さんの絵の光る部分は何だったと思いますか?
丸山:いちばんわかりやすいところだと、描き込みの“密度”ですね。あと、これは音楽も同じだと思うんですけど、「本心でそれを思っているかどうか」ということは、作品に出るとは思います。たとえば読者に対して、「こういう話は感動するでしょう?」って書いたものと、「僕はこれが感動するんです」って書いたものだと、伝わり方が違う。だから、具体的なテクニックというより、それだけ気持ちを入れたことが伝わったのかなと。
水野:逆に、それだけご自身が全力投球したものが、内容面では壁にぶつかったわけですよね。それをどうやって乗り越えたのでしょうか。
丸山:そこが大変でした。最初にすべてを出し切ってしまったせいで、同じくらいの熱量で2作目、3作目とはいかず。しばらくはまともなマンガを描けないというスランプに陥りました。
水野:そういうとき、編集者さんからはどういうアドバイスを受けるものですか?
丸山:マンガの基礎をすべて教えてもらいました。たとえば、“視点キャラ”という、常に読者の気持ちを言語化してあげるテクニックがあるんですけど、そういうものを入れないといけないとか。ストーリーの展開の仕方とか。そういう技術と向き合った上で書いてみると、「うわ、この作者さんはここをこんなに丁寧に描いていたんだ」とか、「ここまで考えなければいけないんだ」とか、いろんなことが見えてくるんですよね。
行ってみた道場が太極拳教室だった

水野:『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』では、原作のZoo(石橋和章)さんとコンビを組まれていますね。どのような出会いだったのでしょうか。
丸山:Zooさんとの出会いは奇跡だなと思うぐらい、いろんなことが積み重なっていました。僕は『週刊少年ジャンプ』にずっと持ち込んでいて、ジャンプの方とやり取りをしていたんです。でも、下積み時代はお金が稼げないので、手当たり次第に様々な仕事もやっていて、やがて今の『サイコミ』を運営しているCygamesさんに業務委託で出社するようになって。そこの赤字部署の改革にたまたま来たのが、Zooさんでした。
水野:おもしろい。
丸山:Zooさんはもともと『マンガワン』というアプリの立役者で。それまでも編集長をやったり、たくさんのヒット作を生み出していたり、業界でキャリアがあって、僕が出会えるような方ではなかったんですよ。でも、そのときにいろいろあって、僕を見つけてくれて。「どうして君はこんなに描けるのに連載できていないんだ?」ということで、チャンスをくださって、連載につながったっていう経緯があります。
水野:描いている側として、Zooさんの何がすごいと感じますか?
丸山:自分のなかにあるものをアウトプットする力がものすごいです。どんな些細なこともネタにしてしまうんですよ。今、週刊で何本も連載を抱えていらっしゃるんですけど、普通はひとつの作品のためにインプットして、アウトプットすることで精一杯じゃないですか。でも、Zooさんは日常の些細なネタまでおもしろくしてしまうんですよね。それは多分、創作において大事な力なんだろうなと思います。
水野:それを丸山さんはどのように絵にしているのでしょう。
丸山:僕はどちらかというと、0から1を作るより、1を100にするほうが得意なんです。だから、「Zooさんのよさがより伝わるためにはどうしたらいいか」ということを軸に着想していく作り方をしています。
水野:格闘技にもいろんな種類があるなかで、『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』では“太極拳”が使われています。なぜ“太極拳”だったのでしょうか。
丸山:もともと僕が、ドニー・イェンさん主演のカンフー映画『イップ・マン 序章』を観て、ドハマりしまして「僕もこんなカンフー使いになりたい!」と思って、たまたま行ってみた道場が太極拳教室だったんです。
水野:すごい(笑)。
丸山:“気”というものを使うと、筋肉がなくても図体の大きなひとを吹き飛ばすことができるそうです。さらに、普通の格闘技のパンチは外部破壊なんですけど、気を込めたパンチは内部破壊で、衝撃が貫通するらしくて。外傷ではなく内臓にダメージを与えられる。だからダメージの食らい方が違うんですよ。「そんなマンガみたいな世界が現実にあったのか。すごい!こんなにおもしろいものはない!」と思って通い始めたんです。
水野:はい、はい。
丸山:ただ、半年ほど経っても一向に強くなれる気配がなくて。年配の方が公園でやっているような体操を延々とやり続けるだけで、組み手のような対面のトレーニングがほとんどないわけです。その話をZooさんにしたら、「君は馬鹿か」と。「中国拳法には、詠春拳や洪家拳、少林拳、截拳道、もっと強そうな武術がいろいろありそうなのに、なぜ太極拳を選んだんだ」と。それで、総合格闘技の選手が太極拳の師範をボコボコにする動画を観せられて。
水野:うわー、切ないですね。
丸山:わからないですよ。もしかしたら、世界には本当に凄まじい太極拳の使い手がいるのかもしれません。ただ、僕はその動画を観て、「えー、太極拳ってそんなに強くないのか」と思ってしまって(笑)。でも、「マンガの要素としてはいいね」という話になりまして。見た目はヒョロヒョロで、メガネをかけていて、コンビニ店員。でもそいつが世界最強の太極拳の使い手だったら、おもしろいのではないか。そこから企画に至りましたね。
水野:それが今、28巻まで続いているわけですが、どんどんストーリーが展開して、太極拳を使う以外のキャラクターも出てきていますよね。おふたりでどのように“太極拳”という核を広げてきたのですか?

丸山:Zooさんと話し合いながら作っていくんですけど、最初にいちばん大変だったのは、僕が格闘シーンをまったく描けなかったということでした。太極拳を題材にするとなると、格闘マンガにならざるを得ないじゃないですか。でも当時、格闘技を何も知らなかったんです。
水野:信じられません。ずっと戦っているシーンじゃないですか。
丸山:それでZooさんに、「頼むからジムに行ってくれ」と言われて、キックボクシングに通い始めたんです。そして、トレーニングをしてみて気づいたことが、「あれ? これは外部破壊のほうが強くないか?」という真っ当な事実で(笑)。でも、運動をすることが創作活動においていい効果を生んでくれています。運動不足解消になりますし、取材にもなりますし、格闘家の方とのつながりも増えましたし、楽しくて今も続いているんですよね。
おもしろくない展開になったときには…

水野:マンガのキャラクターのセリフは、どのように生まれるのでしょう。
丸山:キャラクターから勝手に出てくる感覚かもしれません。僕はよく専門学校で講演もしているのですが、生徒さんによく言うのは、「ストーリーから作ってしまう」と失敗しやすいという話です。どうしても予定調和な物語になりがちだから。そうではなく、キャラクターに試練を与え、それに対して動いた結果を紡いでいくと、自然と物語になる。そういうふうに作ると、作者自身も気づかないような展開に動いていくことがありますね。
水野:そのことに丸山さんはいつ気づかれたのですか?
丸山:まさにZooさんの作り方を横で見ていて。「そうやって作っていくのか」と初めて知りました。逆に、おもしろくない展開になったときには、選択の分岐点まで戻るんです。たとえば、Aというセリフを言ったからこちらに動いた。それならBというセリフを言わせてみたら、Bの方向に行くかもしれない。そういうことを繰り返しながら、作っていますね。
水野:“いいキャラクター”とはどういうものだと思いますか?
丸山:シンプルにいうと、“ギャップがあるもの”だと思います。見た目は陰キャでコンビニ店員なのに、太極拳使いで世界最強とか。有名な作品だと、海賊なのに泳げない。地球を破壊しに来たエイリアンなのに学校の先生。高校生なのに死神。そういうギャップは、読者の方にとってのフックになりやすいですね。反対のものを掛け合わせることによって、ギャップが生まれることが多いです。
水野:また、丸山さんはマンガづくりのノウハウをYouTubeでも発信されていますね。

丸山:最初は、メイキングとかをアップするだけのチャンネルだったのですが、それが恐ろしいぐらい誰にも観てもらえなかったんですね。でもその間、Zooさんは会社を立ち上げて、売り上げもすごくて。「いや、僕もこのままただのマンガ家で終わったらダメだな」と思ったんです。それで、もっと再生数を伸ばすための工夫として、ためになりそうなひと言を足していったのが始まりです。
水野:さらに今、7名のアシスタントさんと完全デジタルリモートで制作をされていると伺いました。
丸山:たとえば、アシスタントさんが10時から入っているなら、僕も10時に。そしてやり取りはほぼLINEです。朝、「よろしくお願いします」と送って、仕事をしてもらって、「お疲れさまでした」だけだったりもします。僕がいなくても仕事がまわるように、進行管理表を作ってシステム化していて。向き不向きに合わせて担当も決まっていますね。あとはチーフアシスタントを立てているので、その方に進行管理してもらったり。
水野:中間管理職もいる。すごいですね。

丸山:結局、長く連載が続いているひとほど、制作スタイルがしっかりしている気がするんです。ベースとなるのは、やはり体力、健康。心身の調子を崩しているひとが本当に多くて。僕は本当に、「ちゃんと寝てください」と言いたいです。長い目で見たとき、絶対に徹夜しないほうが生産性は上がっていますから。
水野:これから挑戦してみたいジャンルはありますか?
丸山:スタートアップというか、起業モノは書いてみたいですね。いちばん夢がある世界だと思うんですよ。ひとつ会社を作って、システムを作って、バイアウトして、億万長者になる。『トリリオンゲーム』じゃないですけど、ああいうのが胸熱だよなと。多分、会社を立ち上げるようなひとってどこか変わっているところがあるじゃないですか(笑)。すでに普通じゃない存在なので、おもしろくなる気がしています。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
丸山:クリエイターは、リスクがあって挑戦するのが難しい世界だと言われがちです。でも、突き詰めると、意外とロジックでなんとかなる部分がたくさんあるので、臆することなく目指してほしいなと思います。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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