クライアントワークに、自分なりの毒をこっそり忍ばせていくのが楽しい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、グラフィックデザイナーで映像ディレクターの岡本太玖斗さんです。

岡本太玖斗(おかもとたくと)
1998年8月7日生まれ、東京都立川市出身。グラフィックデザイナー、映像ディレクター。 筑波大学芸術専門学群ビジュアルデザイン専攻を卒業。卒業後、フリーランス。グラフィックデザインを軸に、映像や音楽、写真など領域を横断して活動する。星野源の「Star」やTeleの「残像の愛し方」などのミュージックビデオを手がける。
ゆらゆらしているひとって、おもしろい

水野:『いきものがかりmeets』という作品で、様々なアーティストのみなさんに、僕らの楽曲をリアレンジ、リフレッシュしていただく企画を行いまして。そのなかで、Awesome City Clubさんに「花は桜 君は美し」を新しくしていただいたんですけれども、そのMVを岡本さんが作ってくださいました。とてもカッコいい映像作品で。meetsの“自由にやっていただく”というコンセプト的に、ほぼ丸投げでしたが(笑)。制作はいかがでしたか?
岡本:思いついたものを作っただけという感覚ですが、あの作品で初めて文字を動かす、“モーショングラフィクス”が身につきましたね。
水野:もともと美術的なものに興味を持ち始めたのはいつ頃から?
岡本:家庭環境的に、小さい頃から興味のきっかけは散らばっていた気がします。母は音大を出てピアニストをやっている音楽家で、家ではずっと曲が流れていましたし。父は絵がうまくて、芸術に興味があるひとだったので、美術館やコンサートによく連れて行ってくれました。僕は結構、寝てしまっていたんですけど(笑)。
水野:岡本さんご自身は、流行のマンガやゲームなどには行かず?
岡本:そういうものにはあまり関心がなかったと思います。絵を描くことや、車が好きだったので、この世にまだ存在しない車を自分で想像して描くという遊びをよくしていました。今考えると、それこそデザインですね。あと、母が昔の洋画好きで、僕も録画されていた作品をいろいろ観て、スピルバーグ監督の映画から影響を受けたり。小学生の頃は、弟とハンディカムで映画っぽいものを遊びで撮っていたのも覚えています。

水野:その“映画っぽいもの”は物語もふたりで作るんですか?
岡本:はい、そんな大層なものではありませんが。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『スター・ウォーズ』とか、好きな映画にかなり影響を受けた筋立てだったなと思います。自分たちで撮って、カット割りも考えて。最近、自分は映像を仕事でやっているのですが、意外と昔からやっていたなと。
水野:どのあたりから、「自分は芸術系の仕事の道へ行く」と意識し始めたのでしょう。
岡本:いや、意識したことがないかもしれません。僕は筑波大学の芸術専門学群に入ったのですが、「これを仕事にしたい」とか「こういう技能を身につけたい」というより、偶然の流れでした。でも、他の学部のひとが、芸術の学生に学園祭のライブポスターを作らせてくれたり、頼られる機会が多くて。そのうちに、水戸で活躍しているミュージシャンの方のアートワークを手がけたり、グラデーション的に仕事になっていった感覚なんです。
水野:最初は仲間内で作っていたものが、だんだん広がり、いつの間にか外のひとと繋がり、仕事になっていったんですね。結果、星野源さんのMVを手がけられたり。
岡本:本当にふわふわしていて、自分の人生のことをあまりよくわかっていないんです。だから、「こういう仕事をしたいんですけど、どうしたらいいですか」というキャリアの相談をたまにされても、何も言えることがなくて困ってしまいます。いろんなきっかけはあるけれど、スライドがなだらかすぎるし、「こうすればなれる」というメソッドも自分のなかにはない。
水野:自分を表現したい気持ちと、求められて作りたい気持ち、どちらが強いですか?
岡本:かなり後者の気持ちのほうが強いですね。お題に応えるような、クライアントワークが楽しい。逆に、「なんでもいいからポスター作って」などと言われるほうが困ってしまいます。問いがあったほうがいいので、「なんでもいい」と言われた場合でも、無理やりクライアントワークっぽくするんです。自分で自分に架空のお題を出して、その問いに応える。そういう形がしっくりきますね。
水野:ただ、お題に対するアウトプットの仕方はものすごく多彩ですよね。

岡本:最初からアウトプットのメディアは決まっていることが多いので、MVディレクターとして頼まれたら映像を作るし、ジャケット写真を頼まれたらグラフィックデザインを作るし、それに合わせて作る感覚ですね。でも、自分は最近わりと、ジャンルを横展開してやっていくのもおもしろいと思っていて。たとえば、映像とグラフィックデザインの間。写真と映像の間。常に間に立ってみることは、意識している気がします。
水野:なぜ、間に立つことにおもしろさを感じるのですか?
岡本:自分が影響を受けてきたひとたちに、そういうひとたちが多かったことが大きいかもしれません。それこそ星野源さんも、音楽も役者もやるし、文章も書くじゃないですか。あと、タモリさん。ジャズ奏者であり、コメディアンであり、司会者であり、そのひとの存在を軸にいろんなことがある。だから、「ゆらゆらしているひとって、おもしろいな」という気持ちがずっとあるんです。
なるべくその場その場で

水野:クライアントの方とは、どのようにコミュニケーションを取っていかれるのでしょうか。
岡本:自分の経験上、結局はいちばん最初に思いついたものが最高で。そこからどんどん変わっていくことを、気持ち悪く感じてしまう。だから、とにかく作って、相手方に投げてみる。すると、意外と「いいね」って言ってもらえるんです。だから、まずはあまり考えずに作るようにしています。
水野:最初のアイデア段階で、どれぐらい見えているのですか?
岡本:たとえば、MVの場合、字でなんとなくの構成を書いたりはしますが、絵コンテを描かないことが多くて。素材が揃って、「さあどうする?」って感じで考えながら、編集する作業がいちばん楽しいんです。
水野:素材を撮っている段階で、編集のイメージはあります?
岡本:「曲のバシッと決まるところで、こういう画があったらいいだろうな」くらいはあって、そういうところは撮っていきます。ただ、「このシーンの次にこれが来て」という具体的な構成は考えないことが多いですね。

水野:「素材が足りない」とはならないですか?
岡本:いつもそれに怯えながら制作しています(笑)。決めたほうが効率いいと思うのですが、最初から頂上を決めて、逆算で作っていくやり方がとても苦手で。あと、自分の頭のなかにあるニュアンスやトーンを言葉にするのも得意じゃないし、リファレンスを探す行為も嫌い。どうしてもそれが参考になるとは思えなくて。チームが許してくれるのであれば、なるべくその場その場でやっていきたい。そういう作り方が楽ですね。
水野:編集のときが、いちばん岡本さんの創作的な部分が動いているんですね。
岡本:そうですね。星野源さんの「Star」のMVは、企画自体もそういう感じでした。撮った素材とグラフィックデザインを並列の状態にして組み直す、という作り方。でも、撮影の終盤にかけて、「もう完成しないんじゃないか」と思いながら撮っていました。まわりの大人たちも、言わなかっただけで不安だったかもしれない(笑)。
水野:「今、岡本さんの頭のなかにはある」と、ものすごく信頼されていたのだと思います。星野さんご本人の意思もあるでしょうし。それが成立するのはすごいことだなと。
岡本:本当にありがたかったですね。あの映像のようなリファレンスを探せと言われても、難しいんですよ。だからこそ、これまでにない複雑な映像を作ることができたなと思います。
ひとの目の奥の光を見てしまう

水野:岡本さんの映像モチーフには、“文字”がよく出てきますよね。どういう存在として捉えていますか?
岡本:情感が込められているものという捉え方をされがちな気がしますが、自分としてはもっとドライですね。文字って形が変じゃないですか。意味内容がまったく関係なかったり、関係していたりしますし。そういう意味のなさがいいなと思っています。もっと享楽的な、単なる楽しみとして文字を使うことが多いです。
水野:では、“人間”という素材はどのように考えますか?
岡本:人間の顔や形は複雑なので、ビジュアルとして強いものだなと思っています。あと、僕は“目”が好きですね。星野さんのMVも最後、目のどアップでいきなり終わりますし、ジャケットデザインにも目が多い。父がすごく目を見てくるひとだったので、視線に対する意識が強いのかもしれません。ひとの目の奥の光を見てしまう。たとえば、会話をしていても、「このひとは僕の周辺を見ている」みたいなことが目の光に表れる気がして。
水野:その情報感知能力はどこで身につけたんですか?
岡本:自然にですかね。「どういうインプットをされていますか?」という質問をたまにいただくのですが、意識的にそういうことをしたことがなくて。見たいものを見て、行きたいところに行っているうちに、引き出しの中身が増えている。ひとの顔や目に惹かれるのも、自分の根源的な感覚である気がします。その原点がどこにあるのか、自分でも不思議なんですよ。

水野:でも“岡本太玖斗らしさ”はちゃんと筋としてある気がして。
岡本:それも無自覚だったのですが、まわりに言われることが増えて、「これが僕らしさか」と。でも最近は、“いたずら心”として意図的に同じ手法を使ったりしています。クライアントワークに、自分なりの毒をこっそり忍ばせていくのが楽しいんですよ。そういうものを俯瞰で見たとき、岡本太玖斗らしい印になっているのかなと。
水野:「岡本太玖斗らしいね」と言われることはどのように捉えますか?
岡本:ポジティブに捉えます。そういうものがはっきりあったほうが、仕事を依頼されやすいですから(笑)。一定のトーンを持ったグラフィックデザイナーにずっと憧れを持っていましたし、“らしさ”があるように見られているのは嬉しいですね。
水野:その“らしさ”を変えたくなる瞬間はありますか?
岡本:そうですね。もう文字をいろいろ動かすような手法はやり切った気もします。でも、意図的に変えていこうとも思っていなくて。僕はわりと飽きっぽいので、飽きたら自然と違うことをやるはずだから。
水野:今、興味が湧くジャンルや手法というと?
岡本:最近、ラジオも含め、話す場に呼ばれることが急に増えたのですが、それが楽しくて。ここまでお話してきて、もうおわかりかと思いますが、僕は自分の頭のなかでモヤモヤがまとまらないんです。でも、強制的に思考を言語化することで、かなり整理されるところがあって気持ちいい。自分の考えを言葉にすることは、機会があったらどんどんやっていきたいと思っていますね。
水野:ただ、モヤモヤしていることがよかったりもするから難しいですよね。

岡本:そうなんです。あと、わかりやすすぎないほうがおもしろいですし、言葉になることで陳腐になるものもありますし。でも、「伝わっているだろうな」と思いながらやっても、大体は伝わってないじゃないですか。だから、「言わないとダメなんだな」と感じた瞬間は何度かあって。喋ることと喋らないことの線引きが、もう少しうまくなりたいですね。
水野:他の方と仕事することはどのように感じていますか?
岡本:ずっと苦手だったんです。でも、2年半前くらいに初めてちゃんと映像の仕事をして。映像って、自然と関わる方の人数が増えるじゃないですか。ヘアメイクやスタイリングなど。その現場でだんだん慣れてきた感じです。あと、他者にお願いすることで、まったく違ったいいものが見えるという体験もありましたし。映像の仕事のおかげで、誰かと一緒に仕事をするハードルが下がった気がします。それはここ最近の自分の変化ですね。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
岡本:お話したとおり、僕は本当に自分のなかにメソッドみたいなものがありません。散歩をしているみたいな感じなんです。“散歩”って言葉、好きで。“散り歩く”という字面もいいし、実際に散歩をするのもいい。だから、「とりあえず歩いてみなよ」ということを伝えたいですね。


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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:Haruka Miyajima
メイク:内藤歩
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