『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』齋藤ヒロスミ

衣装は、自分のなかに眠っている人格を呼び起こすスイッチ。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、衣装デザイナーの齋藤ヒロスミさんです。

齋藤ヒロスミ
1981年 神奈川県生まれ。衣装デザイナー。東京のクラブカルチャーでパフォーマーとして活躍する中、幼少期から始めた小原流生け花の感性を生かし、独学で衣装製作を開始。浜崎あゆみ、氷川きよし、渡辺直美、FRUITS ZIPPER、蜷川実花監督 映画『xxxHOLiC』『Diner』、東京2020パラリンピック競技大会閉会式 衣装統括を担当するなど、幅広く活動。今も時々“着る側の気持ちを忘れない”ために、自分の衣装を着てパフォーマーとして舞台に立つこともある。

生け花の美意識が根底にある

水野:ファッションに興味を持たれたのはいつ頃からですか?

齋藤:もともと洋服にこだわりがあったのと、変なものが好きな子どもだったんですよ。ひととの違いを表現したくて、ファッションにのめり込んでいったのだと思います。

水野:ファッション以外に関するところではいかがでした?

齋藤:12歳くらいのときにテレビで生け花のCMを観て、興味を持って。母親の知り合いに生け花の先生がいたので、生け花の世界に入りました。その先生は綺麗な古典的な作品だけではなく、アンバランスな作品やプラスチックなどの異素材を用いた作品でも表現されていて、僕もかなり影響を受けたと思います。生け花で学んだことをどんどん応用して、ファッションの道に進んだ感じですね。

水野:生け花で培ったものはどれぐらいファッションに転用できるのでしょう。

齋藤:生け花の世界は、「何を見せたいか」というビジョンを作って、いらないものをそぎ落としていくんです。ファッションもまた、「どこにフォーカスするか」を考えながら、デザインを構築していくので、生け花の美意識が自分の根底にあると思っています。また、生け花は花器に対して、いろんな素材を組み合わせてバランスを取っていきますよね。服づくりも、ひとを花器として考えると通ずるものは多いですね。

水野:ファッションのなかでも、とくに“衣装”というところに向かわれたのはなぜですか?

齋藤:僕は他者とのコミュニケーションが得意じゃなかったんですよ。でも、ひとに注目されたいという感情もあって、葛藤がありました。そんななかで、おしゃれな格好をしていると、お喋りが得意じゃなくても、その世界観をリスペクトしてくれるひと、興味を持ってくれるひとが増えた。だから、僕にとってファッションは日常着というより、鎧であり、衣装に近くて。そういう経験から、衣装の持つ力に惹かれていったのだと思います。

水野:ある種、セレブレートしてくれるような存在なんですね。

齋藤:そうですね。衣装は、自分のなかに眠っている人格を呼び起こすスイッチです。

水野:服づくりの技術はどのように培っていったのでしょうか。

齋藤:実家が建築業で、父がものづくりをしている姿を見ていた影響は大きいです。あと、生け花をやる若い男の子は少なかったので、先生方がかわいがってくださって、地域の花展をやるときにリーダーを任せてくれたり。工作も好きで、自分用のアクセサリーを作っていたら、「欲しい」と言うひとが出てきて、それをほぼ原価で売ったりしていました。若いうちからそうした経験を重ねているうちに、自然と身についていった気がします。

とにかく派手で大げさだけど、引き算をする

水野:衣装を手がけられるアーティストさんとは、どうコミュニケーションを取っていかれるのでしょうか。

齋藤:あくまでも着る方が存在するから、僕の仕事の意味があると思っているので、基本的にはそのアーティストさんがやりたいことをひたすらヒアリングします。そこから、いろんな資料を出して、自分なりのエッセンスを入れる。「こうしたらよりよい見え方になるんじゃないか」という提案などをどんどんして、セッションしながら作るというやり方をしています。

水野:どれぐらいのことを聞きます?

齋藤:わりと長い間、衣装を担当させていただくことが多いので、そのアーティストの好みもある程度わかってくるのですが、シーズンごとに「表現したいこと」ってかなり変わるじゃないですか。今まで、「これが好きだろうな」って思っていたことが、「違う」となることもある。だから都度、しっかり意見を聞いて。もし食い違ったら、頭を切り替えて、違うアプローチの資料をいろいろ出す感じですね。

水野:わりと意見が食い違うことは多いですか?

齋藤:そうですね。僕としては、「絶対にこっちのほうがいいだろうな」と思うこともありますよ。でも、アーティストさんにとっての衣装は、自分がテンションを高めるために必要なアイテムです。衣装に対するリクエストを出したり、セッションしたりすることで、「今の自分が表現したいこと」が明確になってきたりもするので。いかにアーティストさんが望むことを具現化できるか、というところをいちばん大切にしています。

水野:そのなかで、どのように“齋藤ヒロスミらしさ”は出しますか?

齋藤:ただ言われたものだけを作るのではなく、自分なりの、「このひとはこの要素が入ったほうがいい」という要素は頑張って押し通せるようにしています。あと、僕が好きなのは“とにかく派手で大げさだけど、引き算をする”という作り方です。その生け花的な考え方は、ものづくりの原点なので崩さないようにしていますね。

水野:いちばん嬉しい瞬間というと?

齋藤:アーティストさんが衣装をとても気に入ってくれて、お客さんの反応もよく、自分自身でも、「これはまったく妥協せず作り切った」と思える、すべてが重なった瞬間です。これがなかなか難しくて。あまりにも難解でトリッキーな提案をしすぎてしまうと、お客さんがついてこられないこともあるので。

水野:お客さんの反応の違いは、何が差を分けるのでしょう。

齋藤:いきなりではなく、徐々に慣らしていけるかどうかですね。たとえば、「前回はこれぐらいの変化球でも、受け入れてもらえたから、今回はもうひとつ上の変化球を投げてみよう」とか。そこに時間をかけて調整することができると、うまくいくことが多いです。アーティストさん、お客さん、自分自身、全部の満足度がバチッと決まることが、僕の目指す衣装づくりだと思います。

水野:アーティストだけではなく、お客さんとも衣装を通じて、コミュニケーションを取っているんですね。

齋藤:そのため、SNSでエゴサーチもよく行います。何が好きじゃないのかとか、ネガティブな意見も必要で。「こういう見方をするひともいる」ということは参考になるので、ひとつの意見として、なるべく取り入れるようにしていますね。

FRUITS ZIPPERの衣装でのチャレンジ…

水野:最近では、アイドルグループ・FRUITS ZIPPERのみなさんのステージ衣装も手がけられています。メンバーが複数人いると、作り方は変わりますか?

齋藤:表現するメインとなるものが変わりますね。グループは、それぞれの個性を引き立たせることも重要ですが、そのグループならではのパワーを表現したほうが、お客さんにも刺さるし、爆発力を生む。だから、「ここはあまり好きじゃない」というそれぞれの意見はもちろん組み込みながら、必ず“全体として完成させる”という衣装の作り方をしています。

水野:どのようにグループ全体としての統一感を持たせていくのですか?

齋藤:FRUITS ZIPPERさんは、メンカラ(メンバーカラー)が存在するので、お客さんもメンカラを着たメンバーを見るのが好きなひとが大半なんです。だけど、すべてメンカラの衣装だと飽きるだろうなと思って、最近はあえて90%ぐらい黒で、10%だけメンカラの衣装を提案しました。かなりのチャレンジだったのですが、そうしたらその衣装を、「今までのなかでもトップクラスに好き」と言ってくれるひとが多くて。

水野:それは何が刺さったのだと思いますか?

齋藤:FRUITS ZIPPERさんはデビューして、いろんなステージを踏んできて、みんなの個性が際立ってきた。だから、あえて違うアプローチをしても、それだけの個性を出せたというところなんじゃないかな。今までボリュームのあるスカートが多かったのですが、今回はショートパンツで魅せたのも、いい感じで。これからもどんどんいろんな提案をしていけるようになるのかなと思っています。

水野:たしかに、キャリアを踏んでいるストーリーが伝わってきます。黒で魅せられる大人になった印象もありますね。

齋藤:そうなんです。シャープに大人っぽくして、そこにレースのような甘い要素も入れて、かなり冒険しました。これは僕が手がけたFRUITS ZIPPERさんの衣装のなかでも、とくに思い入れの強いものになりましたし、メンバーもすごく気に入ってくれたんです。そして、お客さんもときめいてくれた。まさにすべての要素がハマりました。僕にとっての代表作ですね。

水野:また、パラリンピックや大阪・関西万博などの衣装にも携わられていますね。

齋藤:やっぱり着るひとたちが楽しまないと、テンションが下がっているのが伝わってくるんですよ。だから、あのスケール感の衣装をやらせていただくときには、あくまで全体の世界観やテーマを表現しつつ、陽のエネルギーが溢れるように意識しました。人生のなかでも、そんなにあるチャンスじゃないので、とにかく魂と自分の培ってきたノウハウを200%注ぎ込んで臨んで。終わったあと、燃え尽きて具合が悪くなるぐらいでした(笑)。

水野:「これからこういうものを作っていきたい」というビジョンはありますか?

齋藤:僕はクライアントからのオファーがあって、ものを作ることがほとんどで。今、ありがたいことに、いろんなタイプのお仕事をいただいているので、なかなか自分の作品づくりの時間が取れないんです。だから今後は、クライアントからの要望を汲み取ってものを作ることだけではなく、もう制約なしに、「自分はこれを表現したい」というものを、アート作品として作れるようになりたいと思っています。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

齋藤:クリエイターを目指すひとは多いと思いますが、わりとすぐに結果を求める風潮がある気がして。好きだから始めたのに、なかなか結果が得られず、諦めてしまった若い子たちが、僕のまわりにもたくさんいます。でも、時間がかかっても、「好き」を諦めずに続けたら、経験や技術は裏切りません。とにかく数をこなして、制作に時間を費やして、ものづくりをしていたら、絶対にいい方向にいくと思っています。

水野:クリエイティブな世界って、どうしても前に進めなくて、結果が出なくて、倒れていくひとがたくさんいるので。好きを諦めない。すごくストレートですが、常に必要とされる言葉だなと思います。

齋藤:いちばんツラいのは、「頑張っているのに、なんで認められないんだ」という時期ですよね。だけど、ある一定の技術や経験を積んだとき、いきなり超える瞬間があるので。あとちょっと頑張れば、次の領域に行って「楽しい」に変換されるはずですから。チャレンジし続けてください。そして、やっとスタート地点に立ったとき、「ああ、好きだった」という気持ちをもう一度、思い出してほしいです。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:Haruka Miyajima
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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