痺れながら受け入れると、いいことがたくさんある。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
つべこべ言わず、「いい!」って感じが好き
水野:今回のゲストはシンガーソングライターの柴田聡子さんです。ご無沙汰しております。HIROBAでは対談に出ていただいたり、去年は僕らいきものがかりのライブを観に来てくださったり。

柴田聡子(しばたさとこ)
シンガーソングライター・詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。2012年、1stアルバム『しばたさとこ島』でデビュー。以来、歌うことを中心に活動の幅を広げ、詩人・文筆家としても注目を集めている。2025年、シングル『Passing』をリリース。文を手がけた初の絵本『きょうはやまに』(絵・ハダタカヒト)の単行本を上梓。
柴田:そのライブが半年前ぐらいかと思ったら、もう約1年前でしたね。
水野:時の速さにびっくり。久しぶりにお話できて嬉しいです。まず柴田さんは、どんなきっかけから音楽へ向かっていったのでしょうか。
柴田:中学時代、MVの制作が全盛期でおもしろい作品がいっぱい出ていたので、それを観るようになって、音楽も聴くようになっていきました。高校では部活でバスケをやっていて、引退してから、家にあったギターを弾き始めたんですよね。そして大学に入って、友だちに歌ってもらうために曲作りを始めた、という感じです。
水野:最初は作家志望的というか、作ることに興味があったんですね。
柴田:そうですね。友だちの後ろでギターを弾いているような黒子志望であり、曲を作りたいという欲望がいちばん強かったと思います。
水野:大学では映像を専攻されていますが、曲を作るときには映像が浮かんでいるんですか?
柴田:とくには意識してないかもしれません。「これが自分のやり方だ」みたいものもあまりなくて。ただ、文章からではない。最初に頭のなかで音か映像が流れていることが多いです。私は“言葉だけ”という状態にまだ慣れていなくて。だからこそ、言葉だけで世界を作り出していくような作家さんの作品は、すごいなと思います。
水野:とはいえ、アウトプットは言葉の力もとても強いじゃないですか。やっぱり映像的ですし。最初に柴田さんの曲を聴いたときに引っかかった「後悔」の<バッティングセンター>での光景とか、僕は思いつかないし書けない。そこにすごく惹かれます。
柴田:<バッティングセンター>のフレーズもそうなんですけど、実際に見たものを曲にしていることは多いですね。それは自分が体験したことじゃなくてもいい。写真でも映像でも、見たものを。
水野:聴き手からはいろんな反応が返ってくると思いますが、それは柴田さんに変化を及ぼしますか?
柴田:及ぼしていると思います。気にしたり。
水野:気にしたりするんですか?
柴田:めっちゃ気にします!「ああ、これがみんな好きなのかな」とか。
水野:それで書くものを変えたりもします?
柴田:しますね。褒められると嬉しいので、褒められたものを(笑)。
水野:すごく素直じゃないですか!
柴田:そうなんですよ。私は人生のなかで認められたり、「いいね」と言われたり、そういう経験をあまりしてこなかったので。褒められると「よかったんだ!」って嬉しくて、素直に受け止めて影響されます。

水野:僕は自分が曲を書く理由を考えてみて、「肯定されたいからだったんだな」と思うことが多かったんです。自分自身はひとりの人間としてそんなに認められないだろうと、どこか卑屈に思っているところもあるんですけど。曲だったら褒めてもらえる。「曲を“いい”と言ってもらえるということは、間接的に肯定されているということなんだ」と、そこが動機だった。柴田さんは「なんで曲を作っているの?」と訊かれたら、どう答えます?
柴田:結構、時期によって変わりますね。最初は友だちに歌ってもらうためだったから、「その子に褒められたらいい」というか、もはや押しつけていました(笑)。作る欲望だけがあったんでしょうね。それが今、少しだけ聴いてくれるひとや機会が増えてきて、「次、こけたくないな」とか、「ずっといい曲を出していたい」とか、「ずっと“いい”って言われたい」とか。そういう気持ちがある。
水野:大事。柴田さんにとって“いい曲”ってなんですか?
柴田:つべこべ言わず、「いい!」って感じが私は好きですね(笑)。
水野:いや、もう耳が痛い(笑)。
柴田:でも、そういうときってみんなありますよね。歴史とか自分の気持ちとかいろんな背景とかぶっ飛ばして、「これはいいなあ!」みたいな。嫌いだったけど、否応なしに「いいなあ!」とかも。その“いい”の基準も、どこで“いい”に変化したのかも、あんまりうまく言えないんですけどね。
曲作りから離れると調子が悪くなる

水野:自分の変化には敏感なほうですか?
柴田:敏感でないかもしれません。わりとシームレスに変わっていて。自分としてはあまり違和感のある変化はしてない気がするんですけど、まわりからすると乖離して見えるようなところがあるのかな。
水野:僕の実感ですけど多分、HIROBAで数年前にお話したときと違うと思います。それが何なのか言語化できないのが申し訳ないのですが…。
柴田:そう、違うと思います。まったく違いますよね。それはなんかわかります。
水野:前よりもっとひらいているんですかね。
柴田:ひらいています。30代半ばぐらいで、傷つく出来事とかバーッって急にくるじゃないですか。それでいったん閉じこもってアルバムを作ったりしたら、「次はノーガードで頑張ってみるか。今ならできるかも」という気持ちになって。ちょっと傷ついても、繊細になりすぎずに治していけそう、みたいな。
水野:それが作品にしっかり出てくるから、まわりからは変化に見えるのかもしれないですね。柴田さんは、やる気を入れなきゃいけないときなどはどうされていますか?
柴田:私はそういうスイッチを入れることが苦手で。最近はもう、「できないから、入れっぱなしにするしか方法がない」と思って、無心でやっています。
水野:今、心のなかで握手したい気持ちです。
柴田:筋トレとかと同じで。一度、衰えてしまうともうやれなくなってしまう感じがわかるし、怖い。
水野:作ることから離れたい、みたいなことはないですか?
柴田:あまりないです。離れると不安もあるし、むしろ調子が悪くなります。「今日は曲を作らなかったな」というときは、寝つきが悪いです。

水野:僕も一度、ものすごくたくさん曲を作っていたとき、「休んだほうがいい」と言われて休んだんですよ。やっぱり調子が悪くなりました。
柴田:同じですね。2泊3日が限界じゃないですか?
水野:たしかに。3泊4日はもう3日目がツラい。あと、何をしていいかわからなくなる。趣味がないから。趣味ってあります?
柴田:私も趣味がそんなになくて、散歩ぐらい。散歩は趣味って言うのかな。ライブを観るとか、音楽を聴くとかも、まあ作ることに繋がっているし。バスケを観るのは楽しいですけど…。
水野:僕も大リーグの大谷翔平選手のホームランシーンは何度も観ている。
柴田:いっぱい時間を割いてないと趣味とは言えないんですかね。…でも、言っていきましょう。「大谷さんを観るのが趣味です」って。「趣味がなきゃダメ」って、あれは何ですかね。
水野:僕は絶対いらないと思っています(小声)。趣味必要論。
柴田:趣味必要論、抗っていきましょう(笑)
作れなくなるのが先か、死ぬのが先か

水野:柴田さんは音楽のみならず、詩集を出されたり、絵本を発表されたり、いろんなジャンルのことをやられています。それぞれご自身のなかでどう繋がっているものなのでしょうか。
柴田:詩を書いたら、ちょっと曲の作り方が変わるとか。曲を作ったら、詩の書き方が変わるとか。ライブが変わるとか。相互に影響しているなとは思いますね。
水野:詩集や絵本は編集者の方だったり、違うひとの視点が入ってきますよね。音楽制作でもそうですが。他者から言われた何かは受け入れるタイプですか?
柴田:痺れるぐらいアレルギーみたいになるときもあるんですけど、痺れながら受け入れると、いいことがたくさんあるので。
水野:痺れながら受け入れる。これは深いですね。
柴田:「うわ、もう本当にやだ!なんだよ!」って思ったりするんですけど。いったん落ち着いて、「受け入れてみるか」と思うと、ちょっと違うものになるとか、おもしろいことが起こるとか、自分も楽になって頑なさがほぐれるとか、他者と思わぬコミュニケーションを取れるとか、いいことがある。だから最近、毛嫌いしているものほど、「うえー、痛い痛い、見たくない」ってなりながら、やってみるといいなって。
水野:柴田さんの作品は、弾き語りのスタイルと、バンドサウンドなどがついたものと、佇まいが違うじゃないですか。自分の間合いと、他の音がある状況と、整理はつくものなのでしょうか。
柴田:私の場合、バンドはもう最高のミュージシャンたちとやっていて、引き上げてもらって、「自分も最高!」みたいな気持ちになるんです。すごく高くジャンプさせてもらっている。だけどひとりになったとき、それはできないんですよね。私だけではまだまだすぎる。そこでもまさに、「痛い、ひとりじゃ何もできない」ってなりながら、せっかくの機会だからみなさんのプレイをできるだけ学んで、自分に戻そうと思って。
水野:痛い思いをして、学んで、ひとりでやるんですね。でも、今日いただいた『My Favorite Things』というアルバム。このアルバム、今日いただく前から聴いていて。この、楽曲での歌の“間合い”はなんでしょう。
柴田:去年リリースした『Your Favorite Things』というアルバムを、私ひとりで演奏するアナザーバージョンなんですけど。作り始めたとき後悔したぐらい、自分が何もできなさすぎて。「これはヤバい。十何年と弾き語りをしてきたはずけれど、私は何をやってきたんだ?」と思って。
水野:そうなんですか。
柴田:でも、『Your Favorite Things』でもプロデュースに入ってもらった岡田拓郎さんが、録音のとき、「ひとりなんだから、曲のなかでどういう時間の使い方をしてもいいんですよ」とか、「伸び縮みが自由にできるようになるといいですよね」とか、「自分が何をしたいのか考えて、自分ひとりで表現すればいいんですよ」とか、そういう基礎的なことをシンプルに教えてくださって。そこで初めてその間合いの感覚を知ったんですよ。
水野:でも教えてもらっても、それを実現することって難しいですし、この間合いは他のひとには真似できないなと思います。
柴田:いやいやいや、すごく嬉しいです。そんなこと言っていただいて。
水野:柴田さんはこれからもどんどん作っていかれるんでしょうね。
柴田:作れなくなるのが先か、死ぬのが先か。できれば、死ぬまで頑張りたいです。
水野:ずっと作っていたいタイプですか?

柴田:はい、ここ最近は。昔は自分がこんなに作ることに救われているというか、助けられていることに対して自覚的ではなかったのですが。これがなくなってしまったら困るなと思います。作っていると、明らかに体調がいいですし。好きというか、楽しいなと思いますね。
水野:僕は一時期、「いや、まったく好きじゃないかもな」と思って。「辞めちゃえ」みたいな感じもあったんですけど。ちょっとやらないと、「あ、これは自分にとって必要なんだ」って。そういうものなのかもしれません。
柴田:「好きじゃないかもな」とか考えるのって、もはや好きですよね。
水野:小学生の初恋みたいな(笑)。
柴田:ちょっと恥ずかしい気持ちがどんどん出てくるのは、好きである証拠だなという気がします。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
柴田:私自身にも言っている気持ちで、「作り続けるしかないぞ」ということですね。それで何が起こるかは、運や時代にもよるし、コントロールが利かないから。だとしたら、自分が作ることをやめないことくらいかな。
水野:この番組でいろんなゲストの方が同じようなことをおっしゃるんです。究極、辿り着く言葉は、「まず完成させなさい」とか、「作りなさい」とか、「続けなさい」とか。
柴田:本当そうだと思います。やっていると実感としてありますね。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:枝村香織
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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