『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』福里真一【前編】

参加者ではなく、
目撃者として生きてきたから見えるもの

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。

家に3台テレビがあって

水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』。本日のゲストは、CMプランナーでクリエイティブディレクターの福里真一さんです。よろしくお願いします。

福里:よろしくお願いします。

福里真一 (フクサトシンイチ)
1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1992年電通入社。2001年よりワンスカイ所属。2000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、富士フイルム「お正月を写そう」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、ゆうパック「バカまじめな男」、LINEモバイル「LINEモバイルダンス」、マクドナルド「ごはんバーガー」、メルカリ「メゾンメルカリ」など。著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)など。

水野:福里さんは大学の先輩でして。HIROBAでも以前、ゲストに来ていただきお話したのですが、今回も甘えてお呼びしました。また、福里さんがやられているYouTubeの番組にも呼んでいただいて。

福里:『広告ウヒョー!』というチャンネルですね。今からでもぜひ、観てほしいです。

#56【いきものがかり 水野良樹さん】水野さんがウヒョー!ときた広告 

【第1回】/ネスレブライト、任天堂スーパーファミコンなど

水野:改めていろんなお話を伺っていきたいと思います。まず、福里さんはどんなお子さんだったのでしょうか。

福里:とにかくひとに馴染めない子どもでした。私は『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』という本を出しているんですけど、まさに電信柱の陰から見ているタイプ。みんながクラスの真ん中で楽しそうにしているとき、端っこにいる感じでしたね。

『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』

水野:広告に興味を持ち始めたのはいつ頃から?

福里:そもそも昔からテレビが好きで。うちに3台テレビがあって、それが3台ともついているような家だったんです。なぜそうなったかというと、両親がボーリングを趣味にしていまして。ボーリングの大会で優勝すると、賞品がテレビだったりするわけですよ。

水野:じゃあ、ご両親が賞品で取ってきた(笑)。

福里:時々優勝してテレビがやってきて、それが最終的に3台に。で、バラエティー番組とプロ野球中継が同時に流れているとか。そういう家に暮らしていたので、CMに限らず、テレビ好きな子どもだったと思います。かといって、「CMをやりたい」とは、入社してその職に配属されるまで思ったことがなくて。

水野:はい。

福里:広告会社の面接で私は、「昔から友だちがいないので、まわりのひとが何を考えているかわかりません。世の中のひとが何を考えているか調査研究するような仕事がしたいです」みたいな志望動機を言いまして。広告会社の面接って、わりと明るくて元気で前向きな若者たちが多いので、私のあまりの暗さがウケたらしく、受かってしまった。そして、研修後に配属されたのが社会調査ではなく、クリエイティブ部門だったという流れです。

水野:配属が決まったとき、福里さんとしては、「え、俺そっちのほうなんだ」という感じだったのでしょうか。

福里:むしろホッとしたかもしれません。北海道から沖縄までどの地域に行くかわからない。職種も、人事とか経理とか営業とか様々にある。当時、6月末日に200人の同期が集められて、五十音順で配属先が発表されたんですけど。「~勤務を命ず」と言われて、「なぜだ!」って叫ぶひと、何も言えず崩れ落ちるひと、いろいろいて。そんななか、志望とは違ったものの、東京のクリエイティブ部門っていうのは、よかったんじゃないかと。

水野:なるほど。

福里:私が営業に配属されても、使いものにならない自覚が十分にありましたので。あと、配属前に現場研修があるんですけど、その段階で生まれて初めてコピーというものを書いたり、CMの企画を考えたりして。自分のなかでは、「これ、向いているんじゃないかな」と思っていたんですよ。ひと付き合いは苦手だけど、白い紙に向かって何かを考えるという仕事に就けたら、いいかもしれないなと。

水野:その実感はあったのですね。

福里:あったんです。ただ、そこで成績優秀者は褒められたりするんですけど、まったく褒められないから、「きっとこのおじさんたちは、私のこの能力や適性を見抜けないだろうな」みたいな(笑)。と思っていたら、配属されたのがクリエイティブ部門だったので、「意外と眼力あるのか。やるな…」って感じでした。

朝10時から12時までは「企画の時間」

水野:クリエイティブ能力というのはどのように培われていくものですか? 

福里:教育システム的なものはなくて。コピーというジャンルだと、言葉の考え方などを教わることはできるかもしれないけれど。私は最初からCMプランナーという職種だったので、教えられるものでもなくて。単純に先輩のもとについて、その仕事を見ているなかで、何かを掴んだり掴まなかったり。

水野:「もう一人前になれたかもしれない」という成長を実感されたタイミングはありますか?

福里:30代前半ぐらいでジョージアの「明日があるさ」を担当したことは大きかったですね。CMをきっかけに曲も大ヒットして、選抜高校野球の入場曲になったり、『紅白歌合戦』でウルフルズさんとRe:Japanという吉本の方々に歌われたり。CMから派生して連続ドラマにもなりました。そのときに初めて、広告ってものすごくうまくいくとこれだけヒットするものなんだと実感して。そこで広告に対する考え方が切り替わりました。

水野:考え方が切り替わって、ご自身が作るものも変わっていきましたか?

福里:変わったと思います。それまでは、自分がおもしろいものを作ればいい、自分らしい企画を考えないと自分がやっている意味がない、と狭く考えていたんですけど。広告は、世の中全体のムードを変えることを実現できるかもしれない。それなら、自己表現よりも、みんなが喜んでくれることや話題にしてくれることを目指すのが正しいジャンルなんだろうなと。だからCMを作るとき、よりシンプルに考えるようになっていきました。

水野:どうやってアイデアを考えているんですか。

福里:毎日ただコツコツ考えています。でも水野さんもきっとそうですよね。

水野:いや、福里さんは毎日考える時間をしっかり作られて、アイデアを企画に繋げていく作業をされていると何度か伺っているのですが、僕はそんなにコツコツができないですね。

福里:本当ですか。同じコツコツ型かと思っていましたけど。私は基本的には毎日、朝10時から12時までの2時間を「企画の時間」と決めていて。考える時間をちゃんと取ることだけが、唯一の方法論なんです。ただ、そういうひとは広告界には少ないかもしれません。「何もしないでボーっとしているときに思いついた」とか、「違うことをやっているときのほうが思いつきやすい」とか、閃き型が多い気がします。あと徹夜型とか。

水野:考えることの前提になるインプットはされるんですか?

福里:それはしないですね。でも子どもの頃と同じく、家にいるときはわりとずっとテレビがついていて。今の世の中の雰囲気や、テレビに出ているひとたちがなんとなくわかる。クリエイターの方は、映画とかセンスのいい作品を観ている方が多いかもしれないけれど、それは高尚なほうに行きかねない気もしていて。広告って誰でも入れるような雰囲気になっていたほうがいいとすると、ぼーっとテレビがついているくらいがいいのかなと。

企画作業と柔道は似ている

水野:それで、「明日があるさ」とか、「宇宙人ジョーンズ」とか、「こども店長」とか、たくさんのCMができあがっていって。福里さんとしては、そのアイデアの手ごたえはどういうところで判断されていくのでしょうか。

福里:いつ「できた」と思えるかというのは、難しい質問ではあるんですけど、オリンピックで柔道を観ていると、すごく企画作業と似ているなと思います。

水野:ええー。

福里:何度も何度も技をかけては、相手に避けられる。なかなか、かからない、かからない、でも最後に、かかった!ストーン!ってなるじゃないですか。私が毎日やっている企画ってこういうことだなと。「こんな感じのひとが出てきたら」とか、「こういう雰囲気になれば」とか、細かいアイデアの欠片があって、それがなかなか形にならないなか、カキッ!っと要素がすべて、「こうやると形になるんだ」みたいなときがあって。

水野:福里さんのなかで、「今、悩んでいることが何か解決した」っていう実感がはっきりあるんですね。

福里:そういうことです。その瞬間が、柔道の技が決まるのと似ている感じがあって。4年に1度、久しぶりに柔道を観ると大体、「ああ、企画作業と似ているな」と思いますね。とはいえ、「絶対にこれしかない」というタイプでもなくて。複数の「できた」というものがある。それをいろんなひとと相談しながら、どれが本当にいいか決めていくというか。なので、「できた」が終着駅ではないけれど、そういう感覚はあるということですかね。

水野:すると、他のひとと違う感覚も、どこかで持っていないとダメな気がしますね。「できた」と思える感覚、基準がないと、そこにたどり着けない。他のひとが同じようにやろうとしても、福里さんのようにはできないことの秘密が何かあるのかなって。

福里:『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』にも書いたんですけど、友だちに馴染めず端っこから見ていたタイプの人間であるがゆえに、記憶の量が多めではあります。ずっと参加者ではなく、目撃者として生きてきた。そのほうがいろんなものが見えているとも言えるじゃないですか。自分のなかにあるもので、企画を作っていくという意味で言うと、記憶という材料がひとより多いのは特徴かな。無理やりいうと、そういうことですね。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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