『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』長谷川白紙【前編】

ある1つの音が、どういう時間のなかで到来したらアツいか

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。

最近、ライブではすべての曲を繋ぐ

水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、今回のゲストは音楽家の長谷川白紙さんです。以前、長谷川さんがYouTubeの『THE FIRST TAKE』にご出演なされたのですが、「外」という楽曲で僕もコーラスとして参加させていただきました。また、HIROBAでも「透明稼業」という楽曲制作でご一緒しまして。またお話を伺えることを嬉しく思っております。よろしくお願いします。

長谷川:よろしくお願いします。

長谷川白紙(はせがわはくし)
日本を拠点に活動する音楽家。2017年フリーデジタルEP『アイフォーン・シックス・プラス』を発表し、2018年10代最後にEP『草木萌動』でCDデビュー。2019年に1stアルバム『エアにに』、2020年に弾き語りカヴァーアルバム『夢の骨が襲いかかる!』をリリース。
2023年7月にLAを拠点とするBrainfeederとの契約が発表された。2024年7月24日にはアルバム『魔法学校』をリリース。

水野:改めて『THE FIRST TAKE』ありがとうございました。リスナーのみなさん、ぜひ「外」の動画をご覧になっていただきたいです。長谷川さんを囲むように、様々なアーティストが並び、コーラスをする楽曲で。あれって、僕も選んでいただいた理由は? いろんな素晴らしい方々のセレクションをどのようにされたんだろう、というところも気になります。

長谷川白紙 – 外 / THE FIRST TAKE

長谷川:なるべくいろんなバックグラウンドを持っている方を選びたいなと思って。選びたい、というのも上からですけど…。私にとって、最大限多様なメンバーを考えたとき、あの人選をさせていただきました。そしてもう水野さん、ありがとうございました。

水野:リハーサルから楽しくて、楽しくて。ちょっとした合宿のような、文化祭のような。横一線に並んで、バラバラのままでも楽しく一緒にものを作る空気があって。だから『THE FIRST TAKE』の収録のときには、「この1回を演奏したら終わっちゃうんだ」という名残惜しさがありました。

長谷川:本当に寂しかったですし、それぐらい楽しかったですね。

水野:長谷川さんはつい先日、自身初の全国ツアーを終えたばかりなんですよね。いかがでしたか?

長谷川:すごく楽しかったです。いろんなところに行けるのもよかった。その土地柄が出ているのか、会場によってみなさん、反応が違うのがおもしろくて。私自身の演奏も、その土地に合わせて、ちょっとずつ変わっていって。

水野:ライブってご自身の創作に影響を与えますか?

長谷川:ええ。自分のなかで比重がより大きくなっています。最近、ライブのときはすべての曲を繋いでやっているんですよ。

水野:なるほど。

長谷川:全部のBPMを揃えたり、すごく速くしたり、すごく遅くしたりしながら、音が一瞬も途切れないライブを実施していて。すると、時間の流れを意識できるようになり、そこで学ぶことがものすごく多いです。

水野:前にお話を伺ったのは、2020年ぐらいですかね。カヴァーアルバム『夢の骨が襲いかかる!』をリリースされた頃で。まさにJ-WAVEの番組でご一緒させていただきました。多分、その当時はまだそんなにライブをやっていませんでした?

長谷川:たしかにそうかも。そうですね。

水野:そういう過程のなかにいらっしゃった長谷川さんが、数年でどんどん変化されていることをすごく眩しく感じます。

最初から「作ったら、それは聴いてもらうもの」という感覚

水野:その2020年にも伺った気がするんですけど、ご自身の音楽のスタートというとどこから?

長谷川:これは訊かれるたびに答えるのが難しくて、前回も何かモニャモニャ言った気が…(笑)。

水野:「記憶がないんですよね」みたいなことを。

長谷川:そうなんです。まったく覚えてなくて。習い事としてピアノはやっていたみたいなんですけど。両親は「音楽をやらせよう」というより「文化を身につけてもらいたい」みたいな気持ちだったと思いますし。そう考えると、気づいたら、もうこうなっていた…という。

水野:気づいたら、演奏ですか? 創作ですか? あるいは両方くっついているのか。

長谷川:くっついてはいますが、だいぶ創作寄りだったと思いますね。子どもの頃から、作曲家が残した意匠をリアリゼーションすることにそこまで強い興味を持てなくて。どっちかというと、「自分で自由に鍵盤を叩いてみたらどうなるんだろう?」という思いのほうが強くて、それをやってみたくて始めた気がします。

水野:音を出すとか、何かを作るという行為をまず始めるじゃないですか。それをひとに聴かせる段階になるまでには距離がありました?

長谷川:今思うと、私が中学生~高校生ぐらいの頃って、サウンドクラウドというサービスがおそらく全盛期に近くて。そういう世代だったこともあり、自分にとっては「作る」と「誰かに聴いてもらう」にそんなギャップがありませんでした。最初から「作ったら、それは聴いてもらうもの」という感覚でしたね。

水野:ひとに聴いてもらうと、よくも悪くもいろんな反応が返ってくるかと思いますが、それに対してはどういう感覚を持っていました?

長谷川:当時は、ポジティブでもネガティブでもなく、わりとニュートラルだったかもしれません。

水野:その反応によって創作がブレることもなかった?

長谷川:いや、それはあったと思います。自分は影響を受けやすいタイプなので。誰かに「もっとこうしたほうがいい」とか、逆に「あなたのスタイルは最高だから、それで突き詰めたほうがいい」とか、言われたらもう素直に「ああ、そうか」という人格なんですよね。

水野:長谷川さんは作られている音楽が、乱暴に言うと「孤高の存在」のように思われてしまいがちなところがある気がするんです。あまりにもすごいから。だけど、実際に話してみると、とてもひらいているひとです。

長谷川:そうですか。それは安心します。

水野:HIROBAで、最果タヒさんが詩を書いてくださって、崎山蒼志さんが歌ってくださった「透明稼業」という楽曲を一緒に作ったときも、長谷川さんは打ち合わせの段階からよく話を聞いてくれましたし。その上で、長谷川さん独自の表現があって。あと『THE FIRST TAKE』も、いろんな方々を呼んで、まったく違う人間の声を入れるというところもひらかれていますし。すごいなぁと思います。

長谷川:今どんどん安心しています。関わりにくいひとだと思われることが本当に多くて。ありがとうございます。

HIROBA『透明稼業』(OTOGIBANASHI)
(作詞:最果タヒ 唄:崎山蒼志 編曲:長谷川白紙 作曲:水野良樹)

躍起になって何かを否定しなくなった

水野:長谷川さんは1年単位なのか、2年単位なのかわからないけれど、作品ごとにどんどん変化がありますよね。作品づくりのプロセスもこの数年間で変わりましたか?

水野:なるほど。

長谷川:たとえば、音色、コード、歌詞、そういうものがいつどう来たらおもしろいのか、という興味のほうが最近は強いですね。

水野:時間についての興味が増えているのですか? 先ほどの、「ライブのときはすべての曲を繋いでやっている」というお話も時間に関わってきますし。

長谷川:そうだと思います、すごく。

水野:長谷川さんが主に弾き語りの発信をされていた頃、「もとからある楽曲の本質的な骨格を一度解体して、自分なりに解釈していく」という旨のことをおっしゃっていたのが印象的で。

長谷川:はい。

水野:それは音楽の道筋とか文脈とか、線で描けるようなもののことかな、というイメージはあったんです。でも、長谷川さんが今おっしゃっていることは、もうちょっと立体的ですね。音楽という枠内だけの話ではなく、それを囲んでいる空間も含めて、「時間という流れのなかで音楽がどうあればいいか」みたいなことに興味が移っていかれた。

長谷川:そうですね。2020年ぐらいの私は、すごく言語的で、内部反復的であったというか。音楽のための音楽を作っていた気がします。ただ、音楽はそうではない面も持っているじゃないですか。ファッションや他のカルチャーと密接に関わっていて、どういうひとがその曲を歌うのかによって、まったく意味合いが変わってしまったりする。そういうことを認識できるようになってきたのだと思います。

水野:それが「外」のような楽曲にも繋がっていくんですかね。

長谷川:そうかもしれません。あれはもともと弾き語りの曲なのですが、それこそ2020年の私に聴かせたら「却下」と言うと思います。当時の感覚では許せないようなものだったんじゃないかな。

水野:ご自身のなかで何が変わったんですか? 

長谷川:変わったというより、躍起になって何かを否定しなくなりました。たとえば、「音楽とはこうだ。これ以外は音楽じゃない」みたいな気持ちが、少なからず2020年頃の自分にはあって。でも次第にそこを思い直したというか、反省したんです。自分のなかに一本筋が通っているように思えても、実は見落としているにすぎないことがすごく多いなと。そこからいろんなこととの関わり方を考えるようになって、今、という感じです。

水野:受け入れる情報量が広くなったのかもしれないですね。2020年のお話ばかりになってしまい恐縮なのですが、当時ゆっくりお話をさせていただいたとき、「長谷川さんは論理を積み重ねて、ご自身のなかで考えていかれるひとなんだな」と思ったんです。もちろんその議論は「そういうところにたどり着くんだ!」と感心させられるものだったんだけど。でも今、長谷川さんはさらにその先へ進んだんだろうなと。

長谷川:うん、そうかもしれない。

水野:論理だけでは行きつかない、言語化できないところも含めてというか。

長谷川:私は自分をものすごく論理的な人間だと思っているんですけど、論理に甘んじているところがかなりあったというか。さも論理的であるかのように見えていただけで、ちょっと引いてみると、そもそも論理的にも間違いだったことに気づく、という体験がとても多かったんですよね。2020年から今までの間に。だから、かなり変わったのだと思います。

水野:それはお話を聞く側からすると、「おもしろいことになってきたな」って気がします。

長谷川:そうだと嬉しいんですけど…。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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