あの絶望を味わったことがあるから、みんなで暖を取っていく
バレーでいうリベロに近い
水野:理想のツッコミって何だと思いますか?
橋本:いや、もうウケたら、100点。
水野:そこが正義。
橋本:ウケなければ、ズレたか、お客さんが思っていることと離れすぎたか。「たしかに!」って思ってくれて、お客さんが想定したツッコミよりちょっとでも上に行けて、笑ってもらえたらいちばん気持ちいいですね。
水野:素人ながらすごいなと思うのが、漫才って、おふたりの会話なんですよね。まずその会話がひとに見られている、という意識のなかでやるのがおかしい。
橋本:どこかファンタジーというか。
水野:目の前で話している相手が変なことを言ったから、ツッコむ。それは自分の感情を口にしているだけだから、自然な行為じゃないですか。でも、「このツッコミを、このひとも、このひとも、このひとも思っているだろう」って頭のなかで想像して、おもしろい方向に角度をちょっと上げるって、すごく複雑な作業だなって。
橋本:たしかに変ですよね。漫才って立ち話の延長線上と言われていて。それをお客さんも暗黙の了解の上で見てくれている。僕らに話しかけもせずに。不思議な芸能ではあります。
水野:しかもお客さんって、年齢も性別も違うし、どんなひとなのかまったくわからないじゃないですか。そのひとたちの意思を汲み上げて、基本的には全員がハッピーになって笑う。それって優しい。普通はできない。
橋本:たまにいらんことしちゃうこともありますよ。自分と同じ時代を生きてきたひとにしかわからないツッコミを入れたり。たまたま同世代だったひとには、思い切り笑ってほしいなというリッチなたとえを。もうサービスというか。それはお客さんが一定数ウケていて、すべて美味しそうに食べてくれるから。「これも食べる、これも食べる、じゃあよかったら…」という感じで。これは食べても食べなくてもいいですよ、みたいな。
水野:基本、サービス精神が旺盛なのかもしれないですね。
橋本:そうですね。楽屋でも、相方はスマホゲームとかやっているタイプなんですけど、僕はスタイリストさんやマネージャーと喋っていて。まわりのひとって何か作業をしていながらも、絶対に耳は聞こえているじゃないですか。だったら、ちょっと笑かしたいなって。
水野:絶対に場を明るくさせるひとだ。
橋本:目立ち屋とかではないんですけどね。スタッフさんから、「今日16時から収録なのでお願いします」と言われたのに鰻が、「何時から収録でしたっけ?」とか言ったら、「いや16時って今言ったやろ!アホやん!」みたいなツッコミを入れたりもします。ピリッとした空気を変える。
水野:ああー。
橋本:誰かが失礼をしたときも空気を変えたくなります。「音大きすぎるやろ!」とか、ミスをツッコんで。バレーでいうリベロに近いかもしれません。
水野:とにかく和ます方向性なんですね。明るい方向に行ってほしいっていう姿勢。
全員、スベったことがあるから
橋本:わざと変な空気にしに行くこともあります。MCの方もたまに、誰かが緊張しているときとか、自分が1回スベる。
水野:すごく優しい!
橋本:わざとスベるって「嘘つけ!」って言われるかもしれないですけど。スベって、ツッコミをひとつもらえれば、なんか場が落ち着くじゃないですか。逆にそれを先輩にもやっていただいていたので。だから、芸人さんは基本的にみんな優しいと思うんです。
水野:もう自分が犠牲に、送りバントみたいな。
橋本:そういう優しさを誰かが見ていてくれるから。芸人同士であんまり言わないですけど、確実にわかっている。「いや、あれありがたかったな」とか「優しいな」とか。楽屋でも、初めての先輩に会うとき緊張するじゃないですか。すると、先輩がひとボケしてくれる。「今日は何しに来たん?」とか。で、「いやいやいや、あなたの番組に来たんですよ! 今日これこれ!」みたいな。もう楽屋から始まっているわけです。
水野:僕もたまに芸人さんがいらっしゃる番組に出していただくんですけど、やっぱりうまく喋れないから、フォローしていただく側になるんですね。で、必ず芸人のみなさん、誰かをその瞬間その瞬間の主役にしていく。この空気は何だろうって。
橋本:「〇〇さんまだ喋ってないから、最後は全員このひとに振ってあげよう」とか、チームワークがありますね。それは全員、スベったことがあるからと思うんですよ。百戦百勝のひとっていない。死ぬほどスベったときのあの絶望。大小はあるかもしれませんが、あの絶望を味わったことがあるから、みんなで暖を取っていく。
水野:「あのとき俺はやらかしてしまった」って記憶、すぐに思い出せます?
橋本:はい。なんやったら今日の現場でもやらかしましたよ。でも、それがもう傷にもならないというか。1回確実に、誰がどうフォローしても変な空気になったんですけど、「ヤバい!なんとかせな!」という顔をせず、めちゃくちゃ綺麗にヘラヘラした(笑)。すると、じわじわウケてくるんですよ。もう思いつかんかったら、「煮るなり焼くなりしてくれ!」みたいな潔さも出てきた気がしますね。
水野:場数を踏むことによって、「なんとかなるな」と思えるようになっていくというか。
橋本:しかも結局、4打数4安打みたいなひと、実は次、呼ばれなかったりもするんですよ。
水野:なぜですかね。
橋本:トーク忘れちゃったとか、ミスを犯したとか、4打席中1打席しかヒット出てないみたいなひとのほうが人間味が出てチャーミングというか。4打数4安打のひとより、MCのひとからしたら逆にやりやすかったりする。だから、最初はそれで悩みましたね。
水野:わからなくなっちゃいますよね。
橋本:一生懸命ウケるように頑張って。番組のデータとかも観て。今って全録とかあるじゃないですか。
水野:努力型。
橋本:怒られたくないので。番組に迷惑かからないように。…ってやっていたら、削ぐような感じになっていたかもしれないですね。だからそれはもうそろそろやめようかなと。
水野:それだと100%、本当のホームランを打ってないみたいな。
橋本:そう、そんな感じです。マルチが多い。二塁打ばっかり。でもぶっちゃけ今日のミスも、「まぁオッケーかな。変な空気もポイントとしてはありかな」って思うようになってきましたけど。
努力というコップが必要
水野:曲を作っていても思うんですけど、人間力で勝負するひとっているじゃないですか。僕は性格的にひん曲がっているので、そこに抗いたい気持ちがあるんです。「このひとが歌ったらもうなんでもオッケーだよね」とか、「このひとはみんなに愛されているからなんでも100点になるよね」というのがずっとイヤだったんですよ。僕はそれになれないから。
橋本:スーパースターですね。憧れてはいるんですけど、それをよしとしてしまうと、自分の努力が崩壊するというか。
水野:まさにおっしゃる通りで。身内の話になりますけど、うちのボーカルの吉岡はどちらかというとスーパースタータイプなんですよ。リハーサルスタジオに彼女が入ってくると、みんなバッって吉岡を見る。
橋本:キラキラしていますよね。
水野:基本的にああいう感じ。みなさんが抱いていらっしゃるイメージと近いのかもしれない。冷静に考えたら、「お前それわがままだよな」ってことも、彼女が言うとみんな「やってあげよう」みたいな。
橋本:同じことを自分が言うと、「あれ、今日そんなこと言ってくるですね…」みたいな。めっちゃわかります。
水野:そして僕は、本当は吉岡が歌わなくても、一般の方が歌ってもいい曲であり、「曲がいいんだ」と言われたいと思っている。で、吉岡は、「私が歌ったからいいんだ」って思っている。
橋本:なるほど。
水野:でもそれが僕らのいいところだと思うんです。多分、相乗効果になっている。
橋本:「曲がいいんだ」と思っているひとが、天才のボーカルと組んでいるから最高なんですね。はなから、人間力を想定して作っていたら、いきものがかりさんの感じが出ないかもしれない。
水野:でもどうしても、「このひとじゃないと」っていうものに勝てないなぁと何度も何度も思いますね。
橋本:ニッチなたとえで申し訳ないんですけど、ボクシング漫画の『はじめの一歩』ってあるじゃないですか。そのなかの鷹村っていう登場人物は、ずっとジムでもトップで最強の天才肌。しかも努力もしている。でも、世界戦のときに結構やられるんですよ。フラフラになって意識も朦朧としてきて。そんなとき、的確に教えてもらった、ジャブ、ジャブ、ストレートが身体に染みついていて、だんだん逆転していくわけです。
水野:はいはいはい。
橋本:そして最終的に、努力のパンチで倒すんですよ。それが僕の大好きな話で。だから天才もいいですけど、基礎や努力はやっぱり大事かなと。朦朧としたときにこそ、染みついているジャブ、ジャブ、ストレートが出るんだと思います。青臭いですけど。とはいえ、天才って言われていますよね、水野さん。
水野:いやいやいやいや。
橋本:音楽分析の番組とか拝見しています。
水野:あれ、恥ずかしいですよね。
橋本:観ている側は楽しいですよ。僕も努力をファンタジーに留めておきたいし、自分の話をするのは恥ずかしいんですけど、ひとの努力の話を聞くのは好きなんですよね。
水野:努力というか、考えて考えて準備して準備して、培ったものを形にする。でも一方で、作為的なものってバレる。
橋本:バレますね。
水野:僕は多分、デビューしたときよりは、曲を書くのがうまくなっているはずなんですよ。それは実感としてもある。でもそこじゃない部分をどう滲ませればいいのか…。本当にわかんないなと思って。橋本さんは今日も多分、たくさんツッコミをされていると思うんですけど、それはもう日常的に100本ノックをやっているような感じですね。
橋本:たしかに。収録じゃないときにもツッコミは存在していますし。もしかしたら、ツッコミも曲作りのアイデアも、常に溢れるものだからこそ、それをちゃんと受け取る、努力というコップが必要なのかもしれないですね。
文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:文喫
https://bunkitsu.jp
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