いちばん最初のところは「自分がおもしろいから」で始めないと
J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
僕が寂しいと思わなかったら生まれなかったゲーム
水野:米光さんはデジタルゲームだけではなく、カードゲーム「はぁって言うゲーム」や「もじあてゲーム あいうえバトル」などアナログゲームも多く手がけられています。今日、たまたまこのラジオ収録前に、いきものがかりのリハーサルがありまして。現場に「はぁって言うゲーム」の最新作を持っていったら、みんな知っていて。一緒に遊んで、吉岡にも「はぁ」を言ってもらったりして、すごく盛り上がったんです。このゲームはどうやってアイデアが出てきたんですか?
米光:直接のきっかけは「寂しかったから」なんです。コロナ禍前、ゲーム作り道場という講座をやっていたんですね。それで「終わったらみんなでご飯に行こう」となって。お店に行く途中、若い講座生たちはみんなきゃっきゃ言いながら歩いていて。僕ひとりになったとき、「うわ、寂しい。このまま食事に行って、俺ひとりのままじゃ嫌だ。“講義よかったよ”とか“好き”とか言ってもらいたいのに」と思って。
水野:褒められたいと(笑)
米光:はい。でも言われないから、「じゃあ“好き”って言ってもらうゲーム作ろう」と思って。いきなり「好き」だと欲望が露骨に出すぎるので、まずは「はぁ」だなと。いろんなシチュエーションの「はぁ」を言って、そのシチュエーションを当てるゲームにすれば、みんなから「はぁ」と言ってもらえる。それが盛り上がったら、今度は「好き」バージョンにしようと。
水野:すごい。その数十分の間に浮かんだものがここまでの形になるっていうのがまず、すごい。
米光:で、お店に着いて、メモ帳にワーッと「はぁ」のシチュエーションを書いて、「ちょっとやってみよう」ってやったら盛り上がったんですよ。だから、僕が寂しいと思わなかったら生まれなかったゲームですね。
水野:お題のシチュエーション、選択項目はどうやって考えているんですか? わかりやすすぎてもゲームにならなそうですけど、絶妙じゃないですか。
米光:いちばんは「やって楽しい」ことですね。さらに、言わなそうなことを言うのが楽しい。これを実家に帰って、おばあちゃんとか孫とかがいっぱいいるなかでやったとき、めちゃくちゃ盛り上がって。
水野:おもしろそう。
米光:僕、おばあちゃんが言う「好き」って、そのとき初めて聞いたんです。
水野:なるほど! 聞かないですね。
米光:あと、「登録、高評価お願いします」を「怪談YouTuberで」言うみたいなお題もおばあちゃんに当たって。それをおどろおどろしく言うのもおもしろくて。もう当たる・当たらないじゃなく、おもしろい。とはいえ、当てるゲームではあるので、8シチュエーションのうち2つくらいは「ちょっと難しい」くらいのバランスで入れるようにしていて。すると、失敗しても「これ難しかったよ」ってゲームのせいにできるんですよ。
水野:はい、ない。
米光:厳密にできるようにきちっと作りすぎると、演技の勉強みたいになっちゃう。これは遊びなので、なるべく言い訳できたり、「わー、無理、無理!」って言えたり、そういう余白がちゃんと入るようには気をつけています。こういうワイワイ遊ぶゲームは、少し抜け道があるほうがいいと思っていますね。
いきものがかりの「晴々」を最初に聴いたとき…
水野:こういう聞き方は失礼かもしれませんが、ヒットするゲームとヒットしないゲームってどんな差があると思いますか?
米光:それは学生にもよく聞かれるんですけど、僕もわからなくて。ただ、あんまり「ヒットするゲームを作ろう」と思わないほうがいい気はしていて。それよりも自分にだけヒットする、「俺と俺の友だちだけがおもしろい」ゲームでいい。それ以外のひとにも楽しんでもらえる工夫はしないといけないけど、いちばん最初のところは「自分がおもしろいから」で始めないと。
「今、世間でウケているから」とか「流行っているから」とかでやっていると、作っているうちに流行りも終わっちゃうし。自分の魂、というと大げさだけれど、モチベーションみたいなところとズレちゃう。「自分はこれをおもしろいと思う。じゃあどうすればそのおもしろさが伝わるか」と苦労する感覚なんだと思います。
水野:みんな、そこに2段階あると思ってない気がしますね。全部ひとまとめで考えちゃいそうです。曲作りでも。
米光:でも、水野さんはいちばん最初のところで「ウケよう」と思って作っています?
水野:これが、やっぱり作っているときに自分が「いい」と思わないと、作り終えられないんですよね。たとえば、サビを作ったとするじゃないですか。そのサビを完成まで延々と聴き続けるのは自分自身なんですよ。だから、「いい」と思ってないものだと、聴いていられなくなる。
米光:僕、いきものがかりさんの「晴々」って歌を最初に聴いたとき、「アイデアの出し方の歌だ」と思ったんですよ。
水野:おお! マジですか。
米光:だって、それこそ魂のような<ひとつかみ できるような 願いのかけら>に<水をあげて 息をかけて なんどだって 芽吹かせて>みたいなことって、僕が作っている感覚と一緒だと思って。
水野:わー、嬉しい。
米光:そんなことは意識していました?
水野:とにかく曲を書いたときに思っていたのは、まわりの言葉が多すぎる世の中だなと。自分で価値基準を決めるとき、「このひとがいいと言っている」とか、「今の世の中の流れ的にこっちだよね」とか、そういう情報量が多すぎて、みんな自分の物語を立ち上げることができないというか。自分の好きなものを好きということに、かなり勇気が要るというか。
米光:それ! この放送を学生に聞かせよう。みんな、「今、シューティングゲームってウケないから、好きだけど作れないですよね」みたいな言い方をするんですよ。でもそうじゃないんですよね。
水野:もちろん作る上で、相対化する見方も大事なのかもしれないけど、それに自分を奪われてはダメで。ということを最近よく思っているので、そういう曲ばかり書いていて。だから「俺と俺の友だちだけがおもしろい」ことを「他のひとにもわかりやすく伝える」っていう2段階のお話、すごく共感しました。
ゲームでライブをやりたい
水野:米光さんはゲームクリエイターとして、昔と今とで「変わってきたな」と感じることってありますか?
米光:ひとつは、わりと全世代がゲームで遊んでいる時代になってきたなと。僕がゲーム作りを始めた頃は、ゲームの会社に入ったと言えば、「なんで? あんなブームなくなるよ」っておばちゃんに言われたりしたんだけど。今はみんな、そんなことはないだろうと感じている。むしろ、いろんなジャンルに「ゲームっぽいおもしろさを入れてもいいよね」という流れになってきているので、そこはおもしろくなってきたなと思いますね。
水野:米光さんは、ゲームを作っているけれど、結果、楽しさを作っているなって思います。遊んでいる時間だったり、コミュニケーションだったり、“場”を作っているようなイメージで。それって実は、ゲームというジャンルだけにこだわらない、収まらないということなのかなと。
米光:そう、ルールの束縛のなかで楽しく自由にやることがゲームだなと。まさに、「楽しい場が生まれるといいな」と思いながら作っているところがありますね。
水野:これから「こういうものを作りたい」と明確に思っているものはありますか?
米光:今、本を書いているんです。それは楽しいゲームの作り方みたいな本で。ゲーム作りを通して、14歳の少年少女に「ルールって変えられるんだよ」というメッセージを贈りたくて。
水野:どういうところから、それをメッセージとして伝えたいと思ったのですか?
米光:僕もそうだったんですけど、子どものときに「つまらない」と感じても、自分では変えられないと思ってしまうんですよ。「大人が決めているから無理」とか、「校則だから無理」って。でも、たとえばカードゲームって、楽しむために自分たちでルールを守って、自分たちでルールを変えられる。「本当は3人プレイだけど、4人でやってみる?」みたいなことが気軽にできる。
それに気づいてから僕は、「自分がそのおもしろさを提示できて、まわりに受け入れられたら、世の中のルールも変わるんだ」と思えるようになって、すごく気が楽になったんです。それを、しんどかった子どもの頃の僕にもっと早く教えてあげたい、という思いがあるんですよね。
水野:ゲームは必ずルールがある存在だからこそ、ルールに対するネガティブな考え方を逆にポジティブに捉えられる。ルールへの向き合い方を学べるんですね。
米光:ゲームって、競い合ったり、勝ち負けを決めたりするけれど、対決するもの同士、 ルールは共有しているんですよ。だから共同作業なんですよね。その上で勝ち負けがあるところがおもしろい。
水野:それは今の社会にとって大事な視点ですね。みんな勝ち負けに夢中だし。
米光:あと、ゲームでライブをやりたいと思っています。どうやったらできるんだろう。いきものがかりさんのライブとか観ていると、めっちゃ羨ましい。音楽は、自分たちが演奏しているときに、お客さんがわーっ!ってなったり、コール&レスポンスできたりするじゃないですか。ゲームは作っているとき、わりと孤独なんですよ。
水野:音楽のいいところは、 音楽が主役になって、それをみんなで共有できるおもしろさがあるんですよね。ダンスミュージックとかだと、みんなで同じタイミングで身体を動かして、場の空気を楽しむ。だから、ゲームで観客全員がプレイヤーになるようなものがあったらすごく楽しいかも。
米光:いいですよね。そう、そういうのができたらおもしろいだろうなと思っています。
水野:ぜひ、米光さんに作っていただきたいです。最後に米光さんから、これからクリエイターを目指すひとたちへメッセージをお願いします。
米光:僕は「ボツ」はないと思っていて。“アイデアの森”とよく言うんですけど、どんどん発想して、アイデアの森を育てて、そこから「今回はここの景色がいいな」とか「ここはがんがん木が育ったから、作品にできるかな」とか、そうやって楽しく暴れているといろんなものが作れるんじゃないかなと。好き勝手にアイデアを出して、たくさん作ってみるといいんじゃないかなと思っています。
水野:メッセージをお伝えになるときでも、“森”という空間でお考えになることに感動しました。
米光:よく「アイデアってどういうときにひらめくんですか?」と聞かれるんですね。でも正直、ひらめいたことはなくて。アイデアの空間があって、そのなかで「これをやってみよう」とか「これはどうやったら伝わるかな」とか、そういう感覚でやっています。
水野:アイデアに体積があるというか。それはすごくおもしろいですね。今回はゲーム作家の米光一成さんをゲストにお迎えしてお話を伺ってきました。米光さん、ありがとうございました!
J-WAVE Podcast 放送後 25時からポッドキャストにて配信。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集: 井出美緒、水野良樹
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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