日本の伝統と現代の暮らしが共存していく世界観を作っていきたい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
「ふたりなら絶対にいける」
水野:今回のゲストは、プロダクトデザインユニット・goyemonの武内賢太さんです。

武内賢太
株式会社goyemon COO、コンセプター。1993年11月生まれ。都立工芸高校マシンクラフト科を卒業後、東京工芸大学芸術学部へ進学。卒業後はコイズミ照明株式会社 商品部にて、企画・デザインに携わる。同社在籍中に、高校時代の友人である大西 藍とデザインユニット「goyemon」の活動を開始し、現在に至る。
水野:武内さんが工藝やプロダクトなどに興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?
武内:もともとものづくりが好きでした。小学生のときは、マンガを描いていて、それをクラスのみんなが楽しみにしてくれたり、共感してくれたりすることがすごく嬉しくて。そういうことが、ものづくりをしてひとに届けたいと思ったきっかけかもしれません。
水野:そこからファッションにも興味を持つようになっていったんですね。
武内:ものづくりの高校へ進学して、そこでgoyemonの相方・藍ちゃん(大西藍)と出会って、意気投合したんです。そして徐々に「自分たちの欲しいものは、自分たちで作ったほうが早いね」という考え方になっていきました。

水野:ファッションのなかでも、なぜプロダクトという方向へ進まれたのでしょうか。
武内:プロダクトって、ひとに使ってもらうじゃないですか。すると、生活や暮らしに寄り添ったものでないと成り立たない。そういう自分たちの身近にあるストーリー性みたいなものに共感して、興味を持つようになっていきました。あと、自己表現というより、ひとの役に立つものを作りたかった。自分がいることで、何かが誰かの助けになったらなという気持ちが先にありましたね。
水野:goyemonというユニットを組んだきっかけというと?
武内:社会人1年目のときに藍ちゃんが「一緒にブランドを立ち上げよう」と言ってくれたんです。自分たちが高校でやっていた、ものづくりという好きなことを仕事に変えるだけでいいから、一緒に世の中にないものを作ろうという話から始まりました。ひとりでやるより、「ふたりなら絶対にいける」という謎の自信もあって。やっぱり昔から一緒にいたので、心が通ずる部分があったのだと思います。
水野:ブランドパートナー・藍ちゃんの魅力とは何ですか?
武内:改めて言葉にすると恥ずかしいですけど、常に高みを目指している姿勢が、僕は好き。ひととして尊敬できるし、一緒にいると自分も高め合っていける。先を見せてくれる。高校時代からそうでした。
水野:作っている最中のコミュニケーションでぶつかることもあるのでしょうか。
武内:ぶつかりますが、喧嘩はないですね。常に「どちらの案もいいけれど、未来のことを考えたときに今、goyemon的により正しいほうは?」という考え方なので、あまり感情的にはなりません。
水野:「日本の伝統文化を取り入れる」というブランドコンセプトになった理由は?
武内:ブランドを始めたのが2018年で、東京オリンピックや大阪・関西万博が決まったタイミングだったんです。それで「世界のひとたちが、日本の魅力にまた気づく時代になる」と。もともと日本の伝統製品は大好きだったのですが、日本のカッコいい部分、大事にしてきた価値観や感性をもっと伝えられるはずだと思いました。
水野:なるほど。
武内:日本の伝統工芸品って無駄がないんですよ。機能美というか。伝統工芸品を見れば、時代背景がわかるくらい生活に根づいていて。そのよさを、現代のひとたち、海外のひとたち、僕らよりも若い世代のひとたちにより知ってもらいたいという気持ちで、ブランドコンセプトができていきましたね。
職人さんの技術を邪魔しない

水野:日本の伝統文化を取り入れるという面で、大事にされていることは何でしょうか。
武内:リスペクトの気持ちは強く持っているので、残すべき伝統的な要素については、慎重になって考えていますね。たとえば職人さんの技術ひとつでも、培われてきた年月は計り知れない。長年、守られてきたものに、goyemonの感性をどう付け加えていくかというバランスは大事にしています。
水野:たとえば、雪駄とスニーカーを掛け合わせた「unda-雲駄-」という作品、とてもカッコいいです。職人さんのこだわりと、現代における機能性、どうバランスを取るコミュニケーションをしていくのか興味が湧きます。
武内:雪駄とスニーカーのいいとこ取りをした「unda-雲駄-」なんですけど、いい意味で、雪駄部分はあまり変えていないんです。職人さんの手間を増やすような設計にしていない。上の雪駄部分と下のスニーカー部分で、綺麗に割り切っている。職人さんの今までの技術を活かし、邪魔をしないようなデザインを心掛けていますね。
水野:とはいえ、雪駄としての特性がありますよね。つま先は跳ねないとか。左右がないとか。そういうものとスニーカーとしての機能の掛け合わせは、なかなか簡単ではない気がします。
武内:難しかったです。左右がない特性は「unda-雲駄-」にも踏襲していて。現代のフットウェアで左右一緒のものってないんですよね。だからこそ、僕らにとってものすごく新しい。そういう部分を残しながらも、履きやすいものでないといけない。頭のなかにある知識やスキルを使うというより、何回もサンプルを作って、自分たちで履いて試してみるということを繰り返していった結果、雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」ができました。
水野:切子×ダブルウォールグラスの「Fuwan-浮碗-」という作品も、すごいアイデアだなと。
武内:自分たちが使っている製品を細かく観察していると、「なんでこうなっているんだろう?」と思うことが多いんですよ。たとえば、ダブルウォールグラスはすごく機能的だし、電子レンジも使用できるし便利。でも一方で、切子ガラスの尊さにも魅力がある。それなら、切子ガラスに機能性がついたら、使い勝手がよくなるし、用途も増えるし、よりいろんなひとが使える。だから組み合わせてしまおう、みたいなアイデアの生まれ方ですね。
水野:実際、お客さまからはどんな感想がありますか?
武内:雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」を出したときは、力技な商品でインパクトが強いので、「本当に雪駄を愛しているひとから、どう思われるだろうか」という不安もありました。でも意外と、お祭り関係の方とか、お寺の方とか、仕事で履かれる方から、「こういうのが欲しかった」と言っていただけて。
水野:なるほど! 伝統工芸品という文脈ではなく、むしろ日常のなかでまだ生きたものとして使っていらっしゃる方のほうが、「そうそう、このバージョンアップが欲しかった」と。

武内:そうなんですよ。その言葉を聞いて、作ってきてよかったなと思いましたね。
水野:何回もサンプルを作るとおっしゃっていましたが、どのあたりでゴールと判断されるのでしょうか。
武内:作ってみると、「意外にダメだった部分」と「意外によかった部分」が出てくるんですよ。そしてだんだん、「このポイントが変わったら、グッとよくなるかも」というところが見えてきて、想定していなかった悪い部分がなくなっていく。その折り合いがついて、バランスが綺麗になったときが、量産のGOサインである感覚です。
水野:ちなみに、武内さんが今いちばん欲しいスキルというと何ですか?
武内:テレパシーです(笑)。半分冗談、半分本気で。みんなの持っているモヤッとしたものや共感できる部分を、言葉で伝えられたらいいなと思うんです。goyemonでも、「日本の伝統と最新技術を組み合わせる」というコンセプトでやっているので、商品が持つ魅力や、そこに注目した理由を伝えられる力が欲しいですね。まぁ言葉を使わず、テレパシーが使えたらいちばん楽だなと。
水野:やっぱり説明する言葉がないと難しいですかね。
武内:いや、言葉じゃないのかもしれないですね。ただ、その伝統の背景だったり、培われてきたものをgoyemonがどう変えたかだったり、そういうことをちゃんと伝えていきたい。ものづくりで共感を作っていくスキルはこれからも磨いていきたいですね。
ちょっとした違和感を放っておかない

水野:「unda-雲駄-」のヒット以降、切子×ダブルウォールグラス「Fuwan-浮碗-」や、提灯×ソーラーLEDライト「ANCOH-庵光-」などいろんな作品を発表されています。日本の伝統文化のいいところを見つけるまなざしは、どのように培われているのでしょうか。
武内:大事にしているのは、ちょっとした違和感を放っておかないことですね。たとえば、雪駄はよく見たら、鼻緒が真ん中についている。「親指とそれ以外の指で考えたら、真ん中にもっと寄っていたほうがいいのでは?」という違和感を抱いたら、すぐにその理由を調べて。すると、「左右がないから」だとわかる、とか。
水野:なるほど。
武内:提灯は、ひらいているところは見るけれど、閉じているところはあまり見ない。そこに違和感を抱きました。職人さんの技術力によって、閉じることができているって気づく。折りたためばコンパクトに配送できて、とても理にかなっている。昔なら、使わないときはたたんでしまっておける。それなら“折りたためること”を活かしたほうが、職人さんの技術が光るし、コンパクト化されている現代の照明と合わせたら、両方のよさが引き立つ。
水野:すごくロジカルですよね。
武内:最初は感覚的にやっているんですけど、紐解くとロジカルになっていますね。
水野:ただ、工芸製品は1回性みたいなものもありますよね。その職人がその瞬間じゃないと作れないというような。そういう面と、現代の量産品のバランスを取るのはかなり難しそうです。

武内:そこが僕ら、goyemonが感じる醍醐味ですし、goyemonの真骨頂なのかなと思います。手仕事で作られるものと、量産できるパーツを合わせるのは、どうしても難しい。だから、なるべく量産品のほうを伝統工芸品に合わせにいく形で作ることが多いんです。「unda-雲駄-」も、スニーカーのソール部分だけ、型を作って量産するようにしていたり。型を雪駄に合わせて、うちで作ってしまえば専用になるので。
水野:これはすごいですよね。属人性を世代をまたいで繋いでいくことで成立している工藝文化と、大量生産の文化。水と油になってしまいそうなものの矛盾をなんとか繋ぎ合わせて、誰にもできないことをなさっている。みんなが逃げてしまいがちなところに、goyemonのみなさんは向き合っている。いちばん修羅の道じゃないですか。
武内:そうですね。水野さんがおっしゃってくださったように、真似できないからこそ、唯一無二のブランドになる。そこは大事にしているところです。
水野:これからのビジョンはもう見えていますか?
武内:なんとなく想像はしています。goyemonが掲げるコンセプトをより浸透させて、日本が古くから大事にしてきた感性、価値観、美意識を、世の中が変わっていっても活かし続けたい。日本の伝統と現代の暮らしが共存していく世界観を作っていきたいですね。
水野:どうしてそこにいちばん魅力を感じるのでしょうか。
武内:やっぱりどの国でも伝統は大事にされてきているじゃないですか。壊したくないし守りたい。それを僕たちのやり方で、アップデートしていきたいという気持ちが根底にあるのだと思います。

水野:武内さんにとって、いちばん嬉しい瞬間というと?
武内:作ってくださる職人の方や工場の方が、自信満々にまわりに自慢してくれていたりするのは、ものすごく嬉しいです。「これ、うちで作ったんだぞ」みたいな。
水野:やっぱり誰かが喜んでいるのがいちばん嬉しいのですね。
武内:そうですね。
水野:だからこそ、誰かが使うものを作られているのだと今日お話を伺っていて思いました。では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
武内:大事なのは、失敗を恐れないことですね。今の時代、SNSで何か言われることも多い。すると、どうしても自分のやっていることが、いいのか悪いのかわからなくなってくる。だけど、自分に正直になって、世のなかのためにチャレンジしてみてください。それが成功しようが失敗しようが、絶対にいい方向に進んでいるので。失敗の原因を考えることのほうが大事。だから、失敗を恐れずに頑張っていきたい。頑張ってほしいです。
水野:最後に「頑張っていきたい」という言葉が出たのも、まさに武内さんご自身が思っていることだからこそで、とても響きました。


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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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