ツラいけど、すごくしんどいけど、それに見合った人生にはなると思います。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
「俺が好きな演奏をしてもいいじゃん」と思っていたけれど…

小西遼
1988年7月25日東京都生まれ。作編曲家・サックスプレイヤー。洗足音楽大学在籍時より国内外のジャズフェスティバルに参加、様々なコンテストで成績を残す。2011年バークリー音楽院へ奨学金を得て留学。北米でもツアーやレコーディングを経験したのちに同音楽院首席卒業。NY滞在後、2015年に帰国。 “象眠舎”主宰。挾間美帆とのユニット“Com⇔Positions”を立ち上げる。CRCK/LCKSリーダー。プレイヤーとして複数の楽器を駆使、演奏することをスタイルとして多くの現場でマルチ奏者として重宝されており、国内外のフェスにも数多く参加。
水野:小西さんには、いきものがかりのニューアルバム『あそび』収録曲の「あの日のこと」で大変お世話になりました。また、5月には、ソロプロジェクト“象眠舎”の1st EP『SO FAR, SO GOOD』をリリースされて、その記念ツアーも行われているということで。いろんなお話をお伺いしていきたいと思います。まず、音楽に興味を持ったスタートラインというと?
小西:子どもの頃、眠れないときには布団にもぐって目を瞑って、自分で物語を作ったり。家族旅行のとき、ひとり後部座席に座って、窓の外を見ながら空想をしたり。そういう考えごとを、「どうしたら他者に伝えられるんだろう」と思っていたのですが、その方法が小学生の頃はわからず。それが中学で吹奏楽部に入り、サックスを吹いたとき、「自分の気持ちを表現できる、いちばんわかりやすいツールかも」と思ったんですよね。
水野:どうしてサックスでそう思ったのでしょう。
小西:簡単に音が出たからだと思います。トランペットが出やすいひともいるし、フルートが出やすいひともいる。一応、すべての楽器を試してみたのですが、まったく音が出ず。そのなかで、僕が好きだったサックスはたまたま出たので、「あ、これは俺に合っているんだ」と勘違いをしたわけです。人気楽器だったから、みんながやりたがったけれど、そこはひとりっ子の力を発揮しまして(笑)。頑として、「これは俺のものだ」と。
水野:褒められたい、みたいな気持ちはあります?
小西:楽器を始めた頃にはありましたけれど、今はまったく。自分が影響されてきたものと、同じ土俵に立つものを作ってみたい。自分が感動するものを作ったひとたちと、同じ視座で世界を眺めてみたい。世界がどう見えているのか興味がある。そういう好奇心でやっていると思います。

水野:それは他者に対する好奇心というより、自分に対する好奇心ですか?
小西:難しいですね。主に自分に対するものです。「自分の目でたどり着ける景色の限界ってどこだろう」みたいな。だけど、そこにたどり着くためには必ず他者が必要で。作り手と受け取り手という意味でも、作品はひとりですべては作れないという意味でも。ただ、「誰かのために」みたいな気持ちはあまりない気がします。
水野:なるほど。
小西:芸術自体に社会性はあると考えていて、そこを勝手に信頼しているから。そういうものを作れば、ちゃんと世の中に貢献できるだろうし、貢献するものだと思いながら作っている。とくに言いたいこともないんですよ。ひとに影響を与える作品には、何か香りとかオーラみたいなものがあるじゃないですか。好き嫌い問わず、「ああ、これは刺さるよな」と共通して納得できる作品とはどういうものなんだろう、という興味がありますね。
水野:他者と演奏をやることに対しては、どのように折り合いをつけて向き合っていらっしゃいますか?
小西:他者との演奏は、間違えられない、こなさなければならない肉体労働のように感じているんです。というのも、インプロビゼーション(即興)じゃない限り、演奏者と曲が決まっていると、なんとなくその時期の最適解ってあるじゃないですか。このシンガーさんで、このメンバーで、このリハーサル量で、本番がこの時期なら、「ここがクリアしなきゃいけない演奏の合格点」というものがある。
水野:ああー。
小西:逆にいうと、「これぐらいは絶対にできるから、+αをどう頑張ったらよくなるんだろう」って自分に対しても思うので、「まずノルマはクリアしなきゃ」みたいな。そのために、他者とのコミュニケーションや円滑なやりとりが必要だなと最近は捉えています。前はもっと、「自分のバンドやプロジェクトのライブなんだから、別に俺が好きな演奏をしてもいいじゃん」という間違った考え方を持っていたんですけど。
水野:どうして意識が変わっていたんですか?
小西:間違えないほうが、いいライブができたから(笑)。
水野:シンプル(笑)。

小西:多分、いきものがかりさんもあの公演数をやるなら、「どのお客さんにもいちばんいいものを」って求めてやっていくじゃないですか。そのなかで、「こういう可能性もまだある」というよりは、「ここは絶対のボーダーライン」って感じではないですか?
水野:吉岡はそういうタイプだったんですよ。とくに僕らがみなさんから注目いただいていた時代って、お客さんが音源をよく聴いていて、音源をイメージしてライブに来てくださるので、差があるとガッカリさせてしまう。シンプルに言うと、CDが100点ならライブでも100点を出す、必ず完成品をステージに置く、ということを吉岡がかなり頑張った時期があって。それで10何年やっていたんですけど、途中から変わっていったんですよね。
小西:おお、それはなぜ?
水野:そもそも完成品が、100点が、その会場の最適解ではないんじゃないかと。むしろちょっと荒れているほうが、実は合っているような場面が出てくるから。お客さんのテンションや会場の空気、演奏の空気にどう合わせていくかを、吉岡はちょっと考えるようになっていって。それはクオリティーとしては一瞬、下がる部分もあるかもしれないけれど、違う軸というか、場に対する柔軟度で言うと上がっているんだと思います。
小西:なるほど。
水野:でもそれこそ小西さんのジャズというジャンルは、柔軟性や即興性が求められるじゃないですか。だから、そちらに近いのかなとも思っていたのですが。
小西:おっしゃるとおり、いちばん最初のキャリアがジャズで。だからこそ、即興性を持つ、再現性のない、瞬間的な芸術をやることへの感度をあまりにも磨いてしまった。逆に今、その裏返し状態なんですよ。
水野:ああー、振り子のように。
小西:以前の僕が、「間違えてもいいじゃないか」という考えだったのは、そのマインドがあったから。間違えることより、バンドや自分の心のうねりのほうが、優先度は高いと思っていたわけです。でも今は、いきものがかりさんがたどってきた歴史のなかで感じてやっていることと、正反対の作業を僕がやっている気がしますね。
個の作業と社会における音楽の意義

水野:チームの構成員としてのご自身はどう捉えています?
小西:いや、いちばん機能していない(笑)。ギリギリ空中分解しないように抱きとめておこうと。
水野:ご自身のなかで、象眠舎のプロジェクトと、CRCK/LCKSというバンドのすみ分けはあるんですか?
小西:はっきりありますね。CRCK/LCKSでは、みんなの輪を乱さない。自分の意見を通すことを第一としない。「この5人ならではのいちばんおもしろい音楽」や「この5人でしか起こり得ない奇跡」をいちばん大切にして、約10年やっています。家族みたいなものなので、なるべく嘘もつかない。忖度せず正直にやっている感じです。逆に象眠舎は、迷惑をかけてもいいから、自分のやりたいことを絶対に達成する。そこが大きな違いかな。
水野:音楽と向き合っているなかで、やりがいや楽しさを感じる瞬間というと?
小西:頭のなかにあるものが立ち上がっていく瞬間。あと、カーテンコールをいただいたとき。僕は演劇のカーテンコールと、映画のエンドクレジットが大好きなんです。自分が作ってきたものがちゃんと届けられたことを実感するので。あの瞬間をお客さんと誇らしい気持ちで迎えられるとき、やりがいを感じます。水野さんは?
水野:何周かまわって、やっぱり作っていることが好きなのかもなって思うようになってきています。
小西:水野さんにとって、作る作業ってどういう位置にあるんですか? 担っているものもあるじゃないですか。
水野:わりと、職業作家的な捉え方をすることが多くて。社会のリクエストに応じて曲を書いたり、「万人受け」という言葉をわりと素直に言ったりしているので。要求・需要に応えるタイプの作家だと思われているし、それを否定をする気もあまりありません。ただ、作るという作業がないと、自分がまとまっていかないことに最近、気づいたんです。何か行動をしていないと、自分という人格がまとまっていかない。
小西:カウンセリングみたいな感じなんですね。
水野:もとが適当な人間というか、ぐちゃーっとしているんですよ。こんなに喋ったり、ものを書いたりしているのに、言語化できていない。それをきゅーってまとめるのが、メロディーだと思うんです。何かの型にまとめることによって、自分が救われている。しかもその型が再生産されて多くの方に聴かれて、自分が死んだあとも再生産され続けていくことに、自分の命の可能性を感じるというか。…何の話でしょう(笑)。

小西:いや、おもしろいです。水野さんは社会的な音楽の立ち位置も意識されているじゃないですか。自分をまとめる個の作業と、社会における音楽の意義とのいちばんの接点はどういうものになるのでしょう。
水野:作曲をして、それを不特定多数のひとに聴かせるって、非常にエゴイスティックな行為だと思うんですよ。なかでもいちばん強いのは、そのひとの感情をハッキングしてしまうこと。音楽は思考に対して、あるひとつの方向性をもたらすことができてしまう。これは危うい方向にも行くので、ロマンでもあり、リスクでもあるじゃないですか。プロパガンダ的な音楽のあり方もあるわけで。
小西:そうですね。
水野:ただ、僕個人として考えたときに、「僕はこういうふうに世界を見ていた」とか、「僕はこういうふうに誰かが誰かを愛してほしい」とか、なんとなくのスタイルがあって。それが世の中に伝搬してくれたほうが、僕にとっていい世界になる。やはり非常にエゴイスティックなのですが。そういう面に興味を抱いていますね。
小西:すごく合点がいきました。感情のハック、いいタームですね。
水野:小西さんはご自身の音楽と世の中との関係をどう捉えていらっしゃいますか?
小西:自分の感情を、音楽というものにコード化するじゃないですか。その時点で、暗号化がなされているわけです。そして、ニュートラルな状態になった僕の感情が、メロディーとして、空気の振動で世に出る。それを受け取ったひとが、どう読み取るかが芸術のおもしろいところだなと思います。聴いたひとはまったく僕と違うことを考えるかもしれないけれど、実は深いところでアクセスできているんじゃないかというのが、希望だなと。
水野:僕もそれとものすごく近いことを考えます。
『もののけ姫』みたいな作品を

小西:僕はアルメニアのジャズピアニストのティグラン・ハマシアンが好きなんです。アルメニア語の弾き語りで、おそらく聖書っぽいことを歌っているのですが、ひとつも意味がわからない。だけど、えらく感動するんですよ。国や文化や言葉を理解しなくても、何か理解できてしまうところがあるのも、音楽のおもしろさですよね。
水野:僕は13年ぐらい前にオリンピックでロンドンに行ったんですね。それで、ベタなことしたんですけど。電車に乗りながらビートルズ聴いたんですよ。
小西:おおー。
水野:すると、景色にはまるんですよ。ビックリしました。ビートルズって、全世界が知っているし、スタンダード中のスタンダードになっているじゃないですか。ローカリズムなんてないと思ってしまっていた。だけど、「ビートルズの曲にも、この場所のこの景色のここで育ったものとして香っているんだ」ということに気づいて。
小西:そういうことってありますよね。ニューヨークに住んでいたときのほうがジャズを好きだったし、東京に住んでいる今のほうがJ-POPが好きだし。やっぱり渋谷や新宿を観ながら聴くJ-POPはよい。まあ「本場はいい」と言ったらそれまでですが、水野さんのおっしゃるとおり、その土地の空気と匂い、色が大きいんじゃないかなと思います。
水野:人間ってわりと動物的で、そういう何かを読み取れるのかもしれませんね。小西さんはご自身のなかで、何かこれからの軸はありますか?
小西:おもしろいもの、興味のあるものをずっと作り続けたい、ぐらいですかね。あんまりゴールを持ったことがなくて。その時々で、お声がけいただいたお仕事を全力でやる。常にベストを目指す、という感じです。
水野:理想の状態ってあります?
小西:僕は宮崎駿さんが大好きなんですけど、『もののけ姫』みたいな作品を作ってみたい。
水野:それはなぜ?
小西:いちばん強烈だと思うんです。どの世代でも観られるし、感動するし、おもしろいし、ただのハッピーな話ではないとわかる。そして何度観ても、また観たくなる。そういうエンタメ性と作家性と技術が、見事なバランスで結実している。ああいうものを作れる作家で在りたいですね。水野さんと同じく、自分が死んでなお、自分が信じた何かが受け継いでいってもらえるようなものを作れたら、そんなに幸せなことはないなと思います。

水野:どうして僕らは、作家性だけではなくて、エンタメ性にも惹かれてしまうんですかね。表面的には、逆にありそうな要素なのに憧れを抱くじゃないですか。
小西:多分、生物と同じように僕ら作家にも、「どうすれば自分のDNAが受け継がれていくんだろうか。聴いてもらえなきゃしょうがない」という作品に対する生存本能があるんじゃないですかね。とにかくたくさん作らないといけないなと思います。構えて構えて、「まだタイミングじゃない」とか言っていると、わりと短い人生は終わってしまうから。
水野:とりあえずバットを振り続けるんですね。では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
小西:もし真面目にこの番組を最初から最後まで聴いてくださった方が、「おもしろい」と思ったら、さらに興味を持って進めてみて。「何のこっちゃ」ってなるなら、まずはそこが興味の一歩かなと。クリエイターもいろいろなので、それなりの覚悟をして。ツラいけど、すごくしんどいけど、それに見合った人生にはなると思います。ツラいのを楽しんでください。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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