自分のものにしてほしいから、使う方も描けるものにしたい
癒しって、よくわからない
水野:コンドウ先生は、10月に新作絵本『ゆめぎんこう もぐもぐのおるすばん』を出されました。このゆめぎんこうシリーズがまた素晴らしい作品で。
『ゆめぎんこう もぐもぐのおるすばん』
https://www.hakusensha.co.jp/booklist/72289/
コンドウ:“ゆめぎんこう”というお店の店主・ぺんぺんっていうペンギンがいるんですけど、今回はその相棒・もぐもぐのほうに焦点を当ててみました。
水野:うちの息子も読んでいます。
コンドウ:ありがとうございます。恐れ入ります。
水野:先に物語を書くんですか? それともキャラクターを作って、それを動かすのか。
コンドウ:断然、お話が先です。
水野:あ、そうなんですね。
コンドウ:お話を編集さんに送って、「全然ダメ」と言われたらおしまいなので。あんまりそういうことは言われないですけど(笑)。
水野:プロット的なものを作るんですか?
コンドウ:最初は文章で。文章量とかもあったりするので、「こういうお話いかがですか?」っていうのを送って、「いいですね」みたいなやり取りがあって。OKが出たら、「主役はこんな感じで」って絵も一緒に送って。そのあとラフを作っていく感じ。ページを割っていかなきゃいけない。
水野:ストーリーを書き始めたとき、先生の頭のなかにキャラクターは浮かんでいるんですか?
コンドウ:そうですね。たとえば、ゆめぎんこうは、わりとアメがカラフルなので、主役の子たちは白黒で、というのは思っていました。
水野:へぇー。それはどういう感覚の判断なんですか。
コンドウ:白黒ならどんな色が来ても、目立つかなって。たとえば、水色のキャラクターがいたとしたら、空があるとちょっと見づらいじゃないですか。そういうことは意識しますね。
水野:なんであの空気が出せるんですかね。
コンドウ:空気…
水野:優しさというか、ほんわかする感じというか。「癒しを与えてくれます」という触れ出しの作品は、世の中にたくさんあると思うんですよ。でも、明らかにコンドウ先生の作品はポンと頭が出ているじゃないですか。
コンドウ:いや、どうなんですかねぇ…。癒しって、正体がよくわからないなと思っていて。だって、何に癒されるかってひとによって違いますよね。だから「癒しを」って思ったことは一度もなくて。うん、ないな…「癒そう」ってすごく難しいんじゃないかな。それは描いているひとの癒しだから、受け取った方の癒しとは種類が違うんじゃないのかな。
物語を作る前に映画は観られない
水野:たとえば、リラックマがあれだけ広がって、様々な声がコンドウ先生のもとに届くじゃないですか。キャラクターを愛しているひとたちから。そういう声は、コンドウ先生にとってどういうものですか?
コンドウ:ありがてえ、ありがてえ、って思っています(笑)。芸能の方たちは、ご本人だからそういうのがダイレクトに来るのかなって想像するんですけど。私の場合は、私ではない。だから、私もちょっと外から見ている感じはありますね。
水野:僕が曲を見ているときと同じですね。曲、褒められたとき、嬉しいんですけど、自分が対象ではないと思っているというか。
コンドウ:そうそうそう。だから距離はありますよね。どんな感想をいただいても、「そういうふうに受け取ってくださっているんだな」っていう感じがするかな。
水野:すごくフラットなんですね。
コンドウ:そうなのかな。でも映画とか観ると揺さぶられすぎてしまうというか、残りすぎてしまうから、物語を作る前には観ることができないんですよね。そう考えると、キャラクターデザイナーだからフラットにいなきゃ、というのは意識しているのかもしれません。
水野:コンドウ先生がいちばん嬉しい瞬間は何ですか?
コンドウ:やっぱり道とかで、キャラクターのグッズをつけている方を見ると嬉しいです。水野さんも今回、てけのポシェットをつけてお迎えに来てくださって。「あっ!」と思いますね。
水野:また、昨年に続き今年も「作家生活20周年記念 コンドウアキのおしごと展」がいろいろな場所で開催されました。これまでの作品を振り返る機会も多かったと思うんですけれども、この20年間で変化したことってありますか。
コンドウ:変化…。最初はリラックマがメインでしたけど、いろいろお声がけいただいて、絵本とか漫画とか、ちょっと変わった仕事もさせていただいて、いろんなことをする時間をもらえたなと思っています。
水野:僕は展覧会を含め、何度か原画を拝見する機会に恵まれていますけど、なかなかすごいものがあります。お姉ちゃんの友だちみたいな感覚で喋っちゃっているけれど、「これを描いているんだよなぁ…」って。
コンドウ:ありがとうございます。私もライブを観て思っています。本当にすごいなって。
水野:そう、ライブも観に来てくださって。楽屋挨拶のとき、タオルも巻いてくださっていて。「あんなすごいひとなのに、タオル巻いている!」って(笑)。
コンドウ:いや、とんでもない。
水野:ライブを観ていただいて、ちょっとした絵を送ってくださるときもあるんですよ。「こんな感想だった」みたいな。吉岡がステージで前に出て、わあー!ってなっているようなシーンをイラストにしてくれて。もう線にしたとき醸し出す雰囲気がコンドウ先生だし、着眼点がいつもすごい。
コンドウ:ありがとうございます。今日は褒めてもらいに来たみたいな(笑)。そんな深く見てくださっている方いらっしゃらないし、自分も気づいてないから。
「描いてね」っていう気持ち
水野:これからどんな作品を描いてみたいか、具体的に意識しますか?
コンドウ:そんなに意識していないです。漫画も絵本も、お声がけいただいて、「がんばってみます…」っていう感じだったので。やったことないことでご縁をいただいたら、「お!」って思います。手癖と言うか、使う脳がずっと一緒になってしまうので、いろんな方と新しい挑戦をすることで新しい回路が入るのはすごく大事なことだと思っています。だから、てけポシェット作りも楽しかったです。「生地はふわふわで」ってね(笑)。
水野:そうそう。この生地も、コンドウ先生がいろいろ提案してくださって。
コンドウ:耳、かわいい形になりましたよね。すごく上手に作ってくださっていました。
水野:今日たまたま待ち受けが、愛犬・てけなんですけど。てけの写真をどうしてこんなにシンプルに具現化できるのか。しかもかわいく。
コンドウ:「シンプルに」とは思っていますね。それはキャラクターデザインを作る上で、学生さんにも言うことなんですけど。渡したあと、使う方は絵が得意かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、やっぱり自分のものにしてほしいから、使う方も描けるものにしたいなと思っているんですよ。よく小児科さんで、注射を打ったあと、シールにアンパンマンを書いてくれたりするじゃないですか。
水野:はいはいはい。
コンドウ:あれが理想形。その現場の方がちょっと描いたりできるといいなっていう思いがあるので、なるべく引き算したいなと思っています。
水野:それも優しさですよね。使うひとの自由度を高めるみたいな。
コンドウ:「描いてね」っていう気持ちでいるだけですけどね。繋げていただけたら嬉しい。
水野:僕も「口ずさんでね」って思いながら、歌を書いています。
コンドウ:でしょ? そういうことですよね。
水野:「JOY!」って子どもでも言えるじゃないですか。意味がわかってなくても楽しめる。そこを意識しているところも、コンドウ先生とリンクするところかもしれないなと思います。さあ、この番組では最後に、これからクリエイター、ものづくりを目指す方達にメッセージをお願いしております。
コンドウ:自分が「そうすればよかったな」ってことで言うと、絵以外にいろんなことをやっておけばよかったなって思っています。
水野:え、そうなんですか。
コンドウ:この間、私の本を手掛けてくださっているブックデザイナーの名久井直子さんに、「あなたの本は、食べものと睡眠ばかりね」って言われて(笑)。たしかに、って思ったんですよ。引き出しが食べものと睡眠しかない。他のクリエイターさんはどうかわからないけれど、私の職業だと、いろいろ知っていたほうが引き出しあってよかったな。食べものと睡眠以外にもあったろうよって思います。
水野:ヒントをつかめるものが生活のなかにたくさんあるはずで。いろんなことやっていれば作品に結びつくっていうのは、たしかにそのとおりかもしれない。
コンドウ:知っていることによって、見えるものって違うじゃないですか。何かを知っているひとは違う目で見ているんだろうなと思うと、自分は何も見てないかもしれないと思ったりもします。ここを歩いていても、みんな違うものを見ているんだろうなと思うと、いろいろ引き出しがあったほうがおもしろいな、と。
水野:さあ、今回は2週間にわたってキャラクターデザイナーで絵本作家のコンドウアキさんをゲストにお迎えしてお届けしてまいりました。コンドウ先生、ありがとうござました。
コンドウ:ありがとうございました。
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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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