加賀翔 第2回

「恥ずかしいって、楽しいよね、おもしろいよね」っていう信用

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。

共通言語でボケてツッコむ。
でもそういう生活圏で育ってないひとたちは、ビックリする

加賀:水野さんはフィクションというか、小説の主人公は自分じゃないし、自分の経験ではないことを書かれているじゃないですか。

水野:はい。

加賀:だから感動してしまったし、キツかったんですよ。エピローグ前の最終章とか、桜木がこう…。どこまで言っていいのかですけど。「あぁ…聞かずに…」というか、「どっちなの…!?」っていう。これが泣いてしまった。でもよかったなとも思える。どっちとも取れないけど、でも物語としてすごくおもしろかったです。

水野:あぁー、ありがとうございます。

加賀:書いていてしんどくなかったかなとか。

水野:僕の場合は、自分からすごく離れているものを書いたつもりだったんです。女性のキャラクターとか、自分とは本当に性格も違うキャラクターも出てくるし。

加賀:いろんな角度から。

水野:はい。だけど意外と書いていると、「あ、自分もこういうところあるな」とか。口ぶりやキャラクター設定は違っても、やっぱり根本にある価値観が出てくるところは多くて。

加賀:いろんな人格に、自分の考え方がちょっとでも乗っているというか。

水野:はい。あと女性を書くときに、自分が男性だってこともあって、自分が理想とする女性から離れようとするけど、どうしても意識して書いちゃうとか。だから書いている時間は結構、自分を見つめ直す感じになっていましたね。逆に『おおあんごう』みたいに、ご自身の過去をストレートに見つめながら、そことの距離を取りながらみたいな書き方と、どう違うのかっていうのは、興味がありますね。

加賀:水野さんの小説のキャラクターからは、優しさも全面に感じました。

水野:加賀さんが『おおあんごう』のラストシーンで、お母さまのことを考えて、いろいろ思うところがあったとお話されていましたけど、そこと近いのかもしれなくて。キャラクターのなかで、誰かを悪者にするのはやめようと思っていたんですよね。わかりやすく、「こいつ、悪い要素になってくれる。この逆をいけば、物語がストレートにうまく進む」って、思った瞬間もあったんです。

加賀:はいはい。

水野:でもそうすると、何かを抜け落としている気がして。みんなちょっとした悪い部分や無責任な部分を持っているんだけど、理解のできる弱さや悪さにとどまっていて。糸が絡んじゃって、そうなっていく…みたいに書けたらいいなって思っていましたね。それが優しさというのかわからないけど、短絡的にバサッってひとを切りたくない気持ちはあったかもしれないです。

加賀:すごく映像っぽいというか、映画的というか。読んでいて、ノッていく感覚があって。このままセリフとして、ひとが言っていても、スッと入って来るだろうみたいな感じがあったんですよ。

水野:嬉しい。

加賀:だからこれ、映画化したいですよね。あとおもしろかったのが、カメラマンとアシスタントのひとのやり取り。ベテランのカメラマンが、「全然、怖がらなくていいからね、ビビらなくていいからね」って言ったら、後輩のアシスタントが、「いや、めちゃくちゃパワハラしますよ」って言ってきて、「おい、何言ってんだよ!」ってツッコむ。で、このふたりが笑っている。でも、まわりはめっちゃキョトンとしている。

水野:そういうシーンありましたね。

加賀:僕らも結構あるんですよ。共通言語でボケてツッコむ。でもそういう生活圏で育ってないひとたちは、ビックリする。主人公サイド、アナウンサーの子たちは、「えっ、なにこれ」みたいな。あれがすごくおもしろくて。

「恥ずかしいって、楽しいよね、おもしろいよね」っていう信用

水野:最初、加賀さんが映像でコントを書かれているって言ったときに、ちょっと親近感を感じたのは、僕も曲を書くときわりあい映像から浮かぶんですよ。ちっちゃいミュージックビデオが流れているみたいな。

加賀:あ! そうなんですね。

水野:で、加賀さんにお伺いしようと思ったのは、コントのなかにセリフのない部分、なんとなく気まずい空気が流れる場面がいっぱい出てくるじゃないですか。そういうのってどうやって具現化しているんですか? まずあれを、かが屋のおふたりで理解し合うところがすごい。自分のなかではわかるじゃないですか。「こういう気まずいことがあった」とか、「ちょっと恥ずかしい気持ちになることがあった」って。

加賀:はい。

水野:でもそれを誰かに伝える、しかもそのひとも、「あ、わかる、その気持ちね。じゃあそれを再現しよう」ってなる。そこまでがすごく距離があると思うんですよ。

加賀:たしかに。その“気まずさ”を一応、ノートに断片的に書きはするんですけど、言語化するとなると…。だから僕、気まずい顔をひとりで披露するんですよ。相方の賀屋に、「こんなのがあって」って、落語的に。

水野:二役やって。

加賀:はい。痛い話って聞いていて痛いじゃないですか。「この傷口をブラシで擦られて…」って言われたら、「いー!」ってなるじゃないですか。そういう感じで気まずいひとを無理やり再現しちゃう。多分、どこかで相手を信用してないと難しい。思い切って投げてみるしかないですよね。すごく賀屋にスベるときもありますもん。

水野:なるほどなるほど。

加賀:「ここで笑ってくれ」と思って喋っているのに、まだ腕組みして、「うん、うん、ほいで?」みたいな顔をしているとき、「いや…、まぁ別にもう終わりだけど…」みたいな(笑)。少しも伝わらない。

水野:それがもうコントじゃないですか!

加賀:でも、おもしろいと思っているところは、似ているのかもしれないです。気まずいことをおもしろいと思っているひとたちって多分、一定数いるんだろうなって。「恥ずかしいって、楽しいよね、おもしろいよね」っていう信用というか。僕、中学のときとか、すごくスベっていたんですよ。

水野:そうなんですか。

加賀:気まずいこととか、情けないことって、おもしろいと思っていたんですけど、それを伝えても全然伝わらない。「かわいそうだよ、そんなこと言っちゃ」みたいな。

水野:『おおあんごう』と同じ展開になっている(笑)。

加賀:たとえば、クラスで真面目な子が間違えたりしたとき、「恥ずかしいのに誤魔化すなよ!」ってツッコんだりすると、「うわぁ…」「なんでそんな傷口を抉るようなこと言うの?」「いじめないでよ」みたいな空気になっちゃったり。そういうトラウマがあるので、できるだけ優しく丁寧にしようという意識はあるかもしれないです。

水野:他のひとがネガティブに捉えそうなこととか、「これは隠しておこう」ってことに対して、基本的に加賀さんはすごくポジティブに捉えていこうとするんですね。

加賀:あぁー。それはあるかもしれないですね。

水野:他のひとからすると、「うわ!」って思っちゃう瞬間もあるけど。基本的にはポジティブに転換して、笑いにする。それはすごい能力ですよね。

加賀:同級生にすごくスベる子がいたんですよ。でも、クラスやグループのなかでは強い子で。僕、その子をスベってないみたいにする役割があったんです。

水野:ジャイアンとスネ夫みたいな(笑)。

加賀:そうそう。僕が仲介というか、アンプになる。ちっちゃい音が鳴っているんですけど、全然届いてないし、良さが伝わってない。そこで僕が、「こうやでー!」「ここがおもろかったでー!」って言う役割。だからネガティブに言わないとか、できるだけ下に行かないようにするとか、かわいそうなくらい染みついているというか。

水野:あぁー。

加賀:たまに自分のライブ映像を観たり、ラジオを聞いたりしているときに、「うわぁ、ポジティブにしようとしてるなぁ」って思って、ちょっと悲しくなることもありますね。

水野:はいはいはい。

加賀:よくも悪くも明るくしようとしている。そんなつもりはないけど、ニコニコするのがクセになっている。でもそういうことも小説だったら、おもしろく書けるのかなとか。ニコニコしようとしている子をコントでやると、ちょっと痛々しくなっちゃう気もするので。選べる媒体があるのは、すごいことだなって感じますね。

水野:ずっとニコニコしている悲しさみたいなものって、まわりから見ると魅力的だと思うんですよね。頑張って明るくしようとしているとか、何かを変えようとしているひとって、絶対信用できるじゃないですか。

加賀:前に進もうとしているというか。

水野:あと、自分を否定することはないんじゃないかって思える。

加賀:あー、そうですね。

「お前のおかげで、人生変わったな」

水野:この小説を読んでもそうだし、かが屋のコントを見ていても、登場人物たちにどこか、「こいつ、いいやつだな」って思っちゃうのって、そこなんだろうなって今聞いていてすごく思いました。

加賀:僕自身、ちょっとむさくるしいところがあるんですよね。前にコンビニで働いていたんですけど、そこの店長と僕、週6くらい一緒にシフト入っていたんです。で、店長が、「もう何も楽しいことないよ。趣味も何もない。あーあ、お金稼いで、店舗もいっぱい持って、働かずに暮らしたいなぁ」みたいなことを言っていて。でも僕、そういうのよくないと思って。「いや、もう楽しいことを見つけましょうよ!」って。

水野:はい。

加賀:「昔どんなことが好きだったんですか?」「筋トレしてたなぁ」「筋トレしたらいいじゃないですか!プロテイン飲みましょうよ!」とか。あと、そのひと昔カメラが好きだったんだけど、やらなくなっちゃって。「じゃあ競馬を撮りに行ったらいいじゃないですか!僕も一緒に行きますよ!」とか。そうしたら徐々にハマっていって。毎週競馬の情報をチェックして、1発で50万当てるとか、そういうことが頻繁に起こり始めたんですよ。

水野:はい、はい。

加賀:で、その店長に、「お前のおかげで、人生変わったな。お前にはひとを変える力があるな」って言われて。そのとき、なんか気持ち悪いけど嬉しいというか。そこから、ひとの神輿を担いでいきたい気持ちが強くなったのかもしれないです。ネガティブな状況に対して、「でもこんなポジティブな面があるよ!」って言っていくのが、クセになっちゃっているというか。だから水野さんも、本当にしんどいことがあったら言ってください(笑)。

水野:いやー、そうかぁ。すげぇなぁ。店長さんはその後、加賀さんがテレビに出ていることとかは知っているんですか?

加賀:知っています。でも番組で一度、その店長に会いに行くって企画をやったんですけど、もうどこに行ったかわからなくて。そのひとずっと、「イタリアに行きたい」って言っていたんですよ。

水野:イタリアに?

加賀:だから本当にイタリアで競馬やっているかも(笑)。それがもしかしたら、自分の原体験かもしれません。

文・編集: 井出美緒、水野良樹

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