加賀翔 第3回

もうあんたは固定!お笑いでいってください!

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。

「もうあんたは固定!お笑いでいってください!」

加賀:こんなこと水野さんに言うのは恥ずかしいんですけど。ポジティブないきものがかりさん、ずっと好きで。中学のときとか、ストレートに前向きなことを言うのって難しいと思うんですよね。避けがち。逃げちゃう。もちろん自分も斜に構えていた時期ありましたし。でも、王道のど真ん中で戦っているのが、すごくカッコよくて。そういう感覚があるので、自分もすかさないようにって。

水野:身につまされるなぁ。なんで加賀さんがお笑いにいったのか、芸人さんを目指されたのかっていうところに繋がるんですけど、全然違う道もあったはずだと思うんですよ。

加賀:そうですね、本当に。

水野:笑いを目指す方って、いろんなタイプの方がいらっしゃって。たとえば、見るからにおもしろい。クラスでも人気者だし、学校内でも町内でも、「あいつなんか変なやつだね」って。そのおかしさが強すぎて、「あー、やっぱりああなったんだね」って方もいれば。

加賀:はいはい。

水野:ひとりで考えるのが好きな方もいる。加賀さんもどっちかというとそういうタイプかと思うんですけど。でも、たとえばそれこそストレートに小説に入ったり、脚本に入ったり、笑いではない感動の物語を書くほうにいく方もいらっしゃるじゃないですか。でも、「笑わせたい」ほうにいったのは何故なのかなって。

加賀:あぁー。

水野:でもお話を聞いていると、根本的に、「ポジティブにさせたい」って気持ちが。

加賀:あるかもしれないですね。でも恥ずかしい話でいうと、僕は高校を途中でやめているんですよ。合わなくて行けなくなっちゃって。そうしたら、そのタイミングで、おやじバンドを組んでいた知り合いのひとが、「おやじバンドをやめるから、誰か若い子で、機材が欲しい子いないか?」って。それで僕たまたま、マーシャルのギターとか。

水野:絶対に高校生じゃ買えないやつじゃないですか!

加賀:はい。云十万するやつをくれるってなって、「え?」みたいな。しかも山奥の田舎に暮らしていて、近所に迷惑がかからないんですよ。

水野:なるほど。鳴らしてもOK。

加賀:それってガレージ・バンドの流行り方というか、アメリカのガレージで爆音を鳴らせたから、みたいな。「え? 俺、高校やめるタイミングで、アンプもらって、ギターもあって。え? そういうことやん!」って思ったんですよ。正直。

水野:そういうことですね!

加賀:ロックの扉が。

水野:ひらいちゃいましたね。完全に神様が指さしているって。

加賀:「君、おいで」って言われていると思って。親もすごく布袋寅泰とか好きだったんですよ。だからずっと山奥で「BAD FEELING」のカッティングのギターを弾いたりして。やまびこさせて(笑)。

水野:リアルやまびこ(笑)。

加賀:けど、本っ当に才能がなくて。マジで。学校に行ってないので、毎日ずーっと8時間ぐらいやっていたんですよ。でもうまくならなくて。

水野:そんなことないでしょ!

加賀:ある程度は超えていくはずじゃないですか。でも全然、白帯から変わらない。自分のなかで、昇給試験みたいなのがあったんですよね。「この曲、丸々1曲通せたら、黄色帯」とか決めていたんですけど、いっこうにうまくならなくて。

水野:はい(笑)。

加賀:「あれ? どうしよう。このままじゃ音楽では食っていけない。音楽の道に進むってことはないぞ」と思ったとき、同級生に、「お笑いやらない?」って言われて。

水野:あぁー。

加賀:「こっちかぁー!」って。そういうミーハー心でね。

水野:神様は気まぐれですね(笑)。

加賀:で、「これでやっていけるんじゃないかなぁ?」と思って、徐々にお笑いにシフトしました。まぁそこでも挫折はあって、誘ってくれた子が、「やっぱり俺、お笑いやらない」って言い出して、ひとりぼっちになっちゃったり…。でも結局、最後は母親に、「もうあんたはそれやりなさい」って怒られたんですよ。

水野:なるほど。

加賀:それこそ、「ものを書くひとになりたい」とか思っていたので、小説を書いてみたり。いろいろふらふらしちゃっていたところに、「もうあんたは固定!お笑いでいってください!」って言われて。そこでやっと人前に出る覚悟ができたというか。

水野:あぁー。

日常会話でスベりたくない。

加賀:それまでは何にも決めてなくて、スベっていたので。学校でもスベっていて、バイト先でもスベっていて。お笑いが好きという気持ちがあったから、如実にスベっているという感覚があったのかもしれないですけど。

水野:そうですよね。普通に生活していて、「あ、俺、今スベっている」って思わないですもん(笑)。

加賀:そう、めっちゃ思っていたんですよ。同級生がスベっているのを見て、「うわー、恥ずかしいー」って。僕、高校をやめたのはそれが原因かもしれないです。まわりがスベりすぎていて、耐えられなくなってやめた。

水野:なんだそのやめ方!

加賀:「この鳥肌、耐えられない!」みたいな。黒板をキーってやられているみたいな感覚がずーっとあって。

水野:どこか狂気を感じる(笑)。

加賀:でも本当に、いちばん好きなことはお笑いでしたね。

水野:何故ですかね。楽しいから?

加賀:ダウンタウンさんがすごく好きで、「おもしろいひとってカッコいい」って気持ちがずっとあって。同級生でもおもしろい子はたくさんいたんですよ。ただ、自分はその子みたいにはなれないから、いずれそうなれたらいいなって。今の自分より絶対におもしろくなりたいというか。音楽でギターが弾けなくても仕方ないけど、日常会話でスベりたくない気持ちはすごく強くて。

水野:はい。

加賀:「ちょっとでもおもしろくなりたい」って気持ちが、いつのまにか仕事になっていた。今も毎日思いますね。だから吉本のライブ映像を配信で買って観たり。おもしろいひと、たとえばバカリズムさんの単独ライブ映像を買って観たり。ファンの要素がすごく強いんですよね。

水野:あぁー。

加賀:ちょっとでも長くこの世界に身を置いておきたいので、自分も頑張っておもしろくなろうしているところがあるかもしれないです。

なんでよくしようと思わないの?

水野:さっき、「ネガティブなことをポジティブにさせようみたいな気持ちがある」って、あたかも美談のように僕は語っていたんですけど。一方で、加賀さん多分、「すべてのことがおもしろくあってほしい」みたいな欲求があるんじゃないですか?

加賀:あぁ!

水野:悲しそうな顔をしているひとには、「もっと楽しいことあるよ」って言いたくなる。まわりの会話も、「もっと笑えるはずなのに」とか。そこに対しての欲求がめちゃくちゃ強いのかもしれないなって今。

加賀:ちょっと…ドキッっとしています(笑)。

水野:すごい能力じゃないですか。

加賀:でもそういう厳しさはあるかもしれないですね。厳しさというか…。

水野:たとえば、せっかちで、「隣のひとがモタモタしていたら苛立っちゃう」ってひといるじゃないですか。それと似た感覚で、苛立つわけじゃないけど、「どんどん世界を明るくしたい」というか。見えているものが明るくなってほしい、笑っていてほしい気持ちが強いのかなって。

加賀:それはすごくある。自分のなかのよくない面として思っているところがあります。

水野:いやいやいや、絶対にいい面だと思います。

加賀:その、「すべてがおもしろくあってほしい」っていうのは、違う言葉で自分のなかにあって。ちょっとコンプレックスというか。

水野:そうなんですか。

加賀:コンプレックスじゃないんですけど…厳しいんですよ。「なんでよくしようと思わないの?」みたいな気持ちがある。たとえば、バイトしていたとき、パートのおばちゃんがずーっとひとりごと言っていたんですよ。思ったこと全部口にする。

水野:はい、はい。

加賀:それに対して、「ウケてないぞ!」って。

水野:「ウケてないぞ」って目で見ないわ(笑)!

加賀:それをひとに言ったら、「別に無視したらいいじゃん。ひとりごとを言うひとなんだから」って。でも僕は、「空気が悪くなるじゃん」って思っていたんですよ。ひとりごとを言って、片方は嫌がっている。ってことは、もうちょっと方法あるじゃんって。

水野:そうですね。

加賀:だから、「うるさいなぁ!」って言ってみたりしたことあるんですよ。「メモしてくださいよ!」みたいなツッコミして。そうしたら、「もうクセになっちゃっているから、仕方ないのよ」って。…仕方ないのよ、でいいの? みたいな。そういう厳しさがあって。それよくないなって自分のなかで思っていたんですよ。

水野:いやぁ、それこそプラスに捉えた方がいいんじゃないですか?

加賀:本当ですか? すごくドキッとしました。みんなで一致団結しようみたいな暑苦しさがあるから。

文・編集: 井出美緒、水野良樹

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