対談Q 世武裕子 第1回

「何をもってこの旅に出ようとしたか」ってところが一緒。

水野くんって、すごく遠いようで…

水野:対談Qに2回出ていただくのは世武さんが初めてです。1回目に出ていただいたときは『OTOGIBANASHI』という企画があって。皆川博子先生が歌詞を書いて、吉澤嘉代子さんが歌って、世武さんに編曲プロデュースしていただきました。あれからもう2年ぐらい経っているかな。そのご縁をきっかけに「幸せのままで、死んでくれ」とか、何度か曲でお世話になっていて。

世武裕子/sebuhiroko(せぶひろこ)
葛飾区生まれ、広島在住。音楽家。Ecole Normale de Musique de Paris 映画音楽学科を首席で卒業。映画『カラオケ行こ!』『エゴイスト』『日日是好日』『空白』、ドラマ『好きな人がいること』『心の傷を癒やすということ』『モダンラブ・東京 (エピソード2, 5)』など、毎年数多くの映像音楽を生み出している。『missing』『湖の女たち』は共に5/17公開予定。ソロ名義ではオルタナティヴ三部作として『WONDERLAND』『L/GB』『Raw Scaramanga』、ピアノ弾き語り作品として『あなたの生きている世界1と2』をリリース。圧倒的な表現力のピアノ演奏は、森山直太朗、Mr.Childrenなど多くのミュージシャンからも信頼を得ている。

水野:でも一緒にご飯に行くわけでもなく、お茶をするわけでもなく。世武さんの『世武日記』に書いてあったようにまさに「ペンパル」のような。

世武:そうそう。わりとメッセージのやり取りはしていて、しかも独特な内容なんだよね。お互いの人生観について述べるみたいな。

水野:それだけ聞くと…。

世武:こいつらはかなり暗いのかと(笑)。

水野:音楽をやる上での前提の話とかをしたね。

世武:だから水野くんって、すごく遠いようで…遠いのよ。 

水野:遠いようで遠い(笑)。

世武:私は水野くんが「水やん」って呼ばれているからそう呼んでいるのに、ずっと「世武さん」と呼ばれるこの距離感。あと私はミュージシャンの友だちとかに結構、水やんのことを話すんですよ。すると百発百中ぐらいで「え、水野さん?」って言われる。

水野:(世武さんと水野とは)まったく違うところにいるひとだよねって。

「何をもってこの旅に出ようとしたか」ってところが一緒。

世武:そう。みんなは音楽家の側面として見ているというか。多分、水やんのことを「いきものがかりのひとで、テレビに出ていて、売れているポップスのひと」という扱いをしていて。

水野:おお。

世武:音楽業界っていろんなエリアがあるじゃないですか。私が普段いるのは、まぁ言い方が雑だけど「そういった類」ではないところで。そういう面から見ると、「なんで仲いいの? なんで気が合うの? 趣味も違うし、いきものがかりの曲とかめちゃくちゃ聴いていたっけ?」みたいな感じで。

水野:それは思うよ。

世武:たしかにもともとはあまり知らなかったんですけど。でも音楽をジャンルで好きなわけじゃないし、社会的なカテゴリーって関係ないから。どんな職業のひとでも、もっとスピリットなところが近いことってあるし。そういう意味で「めっちゃ話したい」っていつも思って、ちょこちょこメッセージをするんだけど。まぁ水やんは既婚者だからあんまり…とか一応そういうことも考えるわけですよ。

水野:(笑)。

自分を知るってことは、他者を知りたくなるってこと。

世武:世の中的に、「じゃあご飯行こうよ」ってどうなの?とか。本当はそういうことにうんざりしていて。異性とふたりでご飯に行ったら「いやいや既婚者なのに」とか「恋人がいるのに」とかよくあるじゃないですか。

水野:はい。

世武:でも同性同士ならほとんどのひとは何も言わない。異性愛者しかいないわけじゃないのに。あと、会うときに何故、いつも家族や恋人やパートナーが同席しなきゃダメなのか。そういうことに対してすごく反抗心がある。だけど一方で、「世間的にはそうだよね」って頭ではわかっているから。結局、ペンパルなんですよ。

『世武日記』へのシンパシー。

HIROBA FES 2023 写真濱田英明

水野:まぁ種明かしをすると、自分は同性同士でもあんまりご飯とか行かない。

世武:そうなの?たしかにインスタとかにも私生活的なことは細かく書いてないし、誰かとご飯に行っているイメージあまりないよね。私はそこは水やんと合うのかも。

水野:それは『世武日記』を読んでいても思う。ひととの接し方とか、ひとりでいるときの温度感とか、シンパシーを感じる。

世武:(笑)。

水野:誰かと繋がりたくないわけではなくて。むしろ誰かを尊重したいし、一緒にいる楽しさを共有したい気持ちはある。ただ、「ひとり」という自立している存在の楽しみが失われると、イラっとしてくる感覚もある。『OTOGIBANASHI』の企画で世武さんに声をかけたときは、かなり勇気が要って。それは世武さんのお友だちが僕に対して思うようなことを、世武さん自身も思っているかもしれないと想像していたから。

世武:あー、なるほどね。

水野:最初は世武さんがどういうひとかわかってないからさ。「なんで私に声をかけたんだろう」って思うかもしれないし。「どういうふうに繋がるんだろう」って不安だろうし。下手したら怒るかな…って。そういうところから、どうして世武さんを好きだと思ったかというと、基本的には全肯定のひとだなって感じたんですよ。意思をもって「いいんだよ」って言うタイプではなくて、一旦、目の前の事象を受け入れるというか。

世武:それはあるかも。

水野:自分のなかに入れた上で「許せるもの」「許せないもの」とかが出てくる。入ってくる段階では拒否をしない。そこは持っている資質がお互いに近いのかもしれないなって。それが僕の場合、エンタメとしていろんな要素が絡むポップスのほうにいるから、外に向けてひらいているふうに見えているけれど。表現のアウトプットが違っているだけで、何かを入れて出すというシステム自体は近いものがあるんじゃないかなって。

「肯定」や「自己肯定感」という言葉のズレ。

世武:そこは私が水やんを好きな理由でもある。というのも、私自身がいろいろ勘違いされているから。まず「肯定する」って、いわゆる「自己肯定感」をどういう言葉として扱うかという話にも近くて。「自己肯定感」って擦られすぎて、今もうみんなうんざりしているやん。

水野:うん。

世武:でもおそらくみんな「自己肯定感」のイメージを勘違いしていて。自信があるとか、明るいとか、ポジティブパワーを押してくるとか、そういうことを「自己肯定感」って思っているひとがいるんだけど、そうではない。本来は、いいところも悪いところも、あるがままの自分を自分で受け入れることが「自己肯定」だと。

水野:うん。

世武:「心配性だし、すごく神経質。それが自分。じゃあどうやって生きていくか」ってことが「自己肯定感」だと思っていて。そういう意味で私は、自己肯定感が高いし、ひとのことも肯定したいと思う。だけど、世間でいう「肯定」って多くの場合そうではない。

水野:都合のいい感じというか。

世武:そうそう。それに対して賛同して、共感して、評価することを前提として、その結果を「肯定」って言っている。しかも「嫌い」のほうがみんな記憶に残るんだよね。すると私は好き嫌いも激しいから、私がひとつ「嫌い」って言ったことのほうが印象強くて、「世武さんって嫌いなものが多いよね」って言われるわけ。でも私が「好き」って言ったことのほうは、聞いてくれていましたか?って思う。

水野:うん。

世武:で、たとえば、水やんのことを「こういう理由で水野くんが好きで」って話をしたとして、「そうなんだ。でも本当に意外だから、へぇ~…って感じだわぁ」みたいな。相手は腑に落ちてないわけよ。

水野:(笑)。

世武:もし私の「肯定」を、相手も普通に「肯定」して受け入れてくれていた場合、「素敵な関係性なんだね。いいね」ってなるわけよ。でも「そうは言ってもさぁ…」みたいな反応のほうが圧倒的に多い気がする。だから、少し違う話になっちゃうけど、言葉の認識の仕方とか、言葉ひとつで生じるコミュニケーションのズレとか、すごく考える。水やんもそういうものを考えたり、大事にしていたり、言葉に対するスタンスが私と近いと思う。

水野:ああー。

世武:レコードショップ的ジャンルは違うんだけど、私はやっぱりすごく近いものを感じる。たどった道の先にある出口が違ったとしても、「何をもってこの旅に出ようとしたか」ってところが一緒なんじゃないかなって。それはライブを観ていても思った。

水野:そうかもねぇ。当たり前なんだけど、僕は最初、世武さんは“音のひと”だと思っていて。実際にあの音源を聴かされたときの衝撃度もあるし。だけど会話をしていくと、思った以上に“言葉のひと”だなって印象を持ったの。

世武:そうだね。

水野:シンガーソングライターとして活動しているときの歌詞の捉え方、向き合い方からも感じるし。インスタからこぼれてくる熱量もそうだし。論理としても細かく言葉を見ているし。あと、「誰か」(いきものがかり10th ALBUM『○』収録)のレコーディング現場でも思ったけど、何かをディレクションするときに、すごく言葉と論理で伝えていくよね。長嶋茂雄さんみたいに「シュッときたらパッと打て!」みたいな感じじゃなくて。

世武:(笑)。

水野:音楽的な用語とかでもなく、もっと繊細に。たとえば「絶望」を描くなら、それがどういう絶望で、どうなっていって、何が救いになるか…みたいなことが言葉でするすると出てくる。そういう光景からも、世武さんのなかで言葉という存在は大きいんだろうなと思う。

文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:LILNSY
メイク:枝村香織
監修:HIROBA
協力:アンデルセン広島

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