今の建築が50年後、100年後にもちゃんと理解してもらえるように
これからの牧場って…
水野:山田さんは現在とても忙しく、進行中のプロジェクトがいくつもあると伺っています。具体的には今どういったものをやられているのでしょうか。
山田:まず、来年2025年に大阪関西万博がありまして。その休憩所をひとつ設計していて、今もう施工に入っています。もうひとつ大きいのが、大分県の九重町にやまなみ牧場という観光牧場があり、そこのリニューアルに関わっていて。それも来年の春オープンするので、その2つが大きなプロジェクトですね。
水野:その他に、住宅のお仕事もされていて。でも万博の休憩所、観光牧場、住宅って、それぞれのクライアントが求めているものがまったく違うような気がするのですが、それをヒアリングのなかで具現化していくのですか?
山田:そうですね。とくに牧場は、あまり建築家が作っていることがなくて、先行事例が少なすぎるんですよ。クライアントの方が何を求めているのかも、実は最初の打ち合わせだとあまりよくわからない。でもリニューアルするからには、新しくしたいし、よくしたい。だから、「これからの牧場って、どういう場所だったら楽しくて、みんなが来てくれて、私たちもいいと思えるのか」みたいなところから一緒に考えていきました。
水野:牧場を再定義するというか。根幹からの話になってくるんですね。
山田:プログラムから問い直す、みたいなことをやらせていただくのは多分、牧場が初めてですね。牧場って観光牧場と、いわゆる畜産のような生業の牧場と、大きく分けて2つあるんですけど。どちらも自然環境を人工的にちょっと調整して、羊とか馬とかヤギとかそういう動物たちにいろんなものを作ってもらって、それを私たちが生活の糧にしていく。そういう人工と自然との境目に、すごく関係しているプログラムだと思うんですね。
水野:はい。
山田:今回は観光牧場なので、そこを新しく体験してもらえたらなと。たとえば、ヤギってすごく元気な動物なんですけど、アクティブなヤギと穏やかな羊が楽しそうに暮らしている様子を、どうやったらもっと見せられるか、とか。お子さんがいるファミリーとかに遊びに来ていただいたとき、「牧場って楽しいね」「動物はおもしろいね」という体験をしてもらえるような場所を作っていますね。
水野:北海道に、エサのやり方や動物たちの導線のコントロールの仕方を大きく変えたことで、人気を得た動物園がありましたけど、それと近い気がしますね。牧場自体のアピールでもあるけれど、牧場という現象をどう体験してもらって、学んだり楽しんだりしてもらうか。すごくエンタメの要素が多いのかなって。
山田:そうですね。やっぱり観光地として作っているので、エンターテインメントの部分もあります。最近のエンタメって、体験型じゃないですか。だから、牧場に来て、ただ見るというよりは、羊たちがいる場所に私たちが自然と入っていく。そして、彼らが幸せそうに草を食べているところにそっと一緒にいて、私たちもお弁当を食べたり、風景を眺めたり、写真を撮ったり。そういう場所になるといいんじゃないかなと。
水野:エンタメって、一方的に渡すものが多くなりがちなんですよね。僕らの音楽とかは、それの最たる例かもしれないけれど。でも、最近よく思うのは、ライブって実は“ライブ会場に来ること”がかなりの体験になっていて。それが“ライブを楽しむこと”の多くを占めているからこそ、その空間をどれだけ演出できるかが大事なんだろうなと。
山田:そうですよね。
水野:牧場のお話を伺っていて、ライブと同じようなエンタメ要素が今は求められているのかもなと思いました。そして「建築」と言葉にすると、何かを建てる・作るほうに思考が向かっちゃいそうだけれど、山田さんが考えられていることは、“その場でどう見せるか”とか、“その先でどう楽しむか”とかなんだなと。
山田:はい、うまくいくといいなと思っています。
今の社会で自分が何を考えるべきかを反映させていく
水野:山田さんは建築に対して、「必ず新しさを求める」ということをいろんなところでお話されていますよね。その「新しさ」とはどういうものなのでしょうか。
山田:ひとつは、みなさんに鮮やかに映ること、興味を持ってもらえること。あと、社会の価値観や地球環境って、もう1年で変わっていくじゃないですか。建築はどうしても時間がかかり、一度作ったら50年、100年と使うものなので、簡単には変えられないのですが。でも、作っているときの社会の感受性みたいなものを、自分を通じて反映していくことで古びないんじゃないかなと思うんです。
水野:はい。
山田:今の建築が50年後、100年後にもちゃんと理解してもらえるように。価値があるものだと思って使い続けてもらえるように。そういうものにしたいなという気持ちがあります。そういう意味では「新しさ」というより、「今の社会で自分が何を考えるべきかを反映させていく」ということを大事にしているという感じですね。
水野:すごく哲学的です。50年後、100年後、未来に残したいと考えると、これからどういうものを作っていきたいですか?
山田:やっぱり自然環境と人工的な環境の接点を作っていくこと。都市のなかの自然って、なんとなくちょっとぎこちなかったりするものがまだまだ多いので。それをどこまで私たちの観点で、生き生きしたものにしていけるかというのは大きな課題だと思っています。
水野:たしかに、都心でたまに見える緑って、「すごく意志を持って緑を作っているな」という感じがあります。その緑の土地を守るために、無理やり区画を作って、なんとか頑張ったみたいな。それはそれで尊いことなんですけど。自然に溶け込んでいるかというと、溶け込んではいない。でも、溶け込むことが正しいのかというと、そうでもない気もするし。難しい。今の時代だからこそ問われている課題なのかもしれないですね。
山田:そうですね。たとえば、南米とかアジアの町へ行くと、誰が管理しているのかよくわからないような植栽体がものすごく元気にうわぁっと成長して、ビルを覆っていたり。勝手にどんどん伸びて、木陰を作っていたり。人工的に調整されてない感じがするんですよ。気候の影響とかいろいろありますけど。でも、それぐらい自然の力を感じられるような、植物の参加の仕方、都心部の参加の仕方って、あるんじゃないかなと思ったりします。
水野:どうして「自然」に惹かれるんですかね。山田さんから必ず「自然」というワードがこぼれてきますし、なぜかそこに共感できる。きっとみんな、作り込まれたものに対する違和感は抱いている気がして。
山田:あー、なるほど。
水野:たとえば、今ってAIが発達してきて、わりと「これってAIが作ったんじゃないの?」みたいなことをすぐ思いがちで。だからこそ、何の作為もない自然の需要が高まっているのかもしれないですね。すると、山田さんがやられている自然と人工物を噛み合わせるというのは、すごく大きなテーマだなと。
山田:AIって、人間のなかにあるものが積み重なって出てきた最適解みたいなもので。だけど、それに対して人間が微妙な違和感を抱くって、不思議ですよね。自分たちが持っているはずのものなんだけど、なぜか集合値にすると違和感がある。それに対して、自分たちが持っていないものや知らないものに、美しさや癒しを感じるというのは、きっともう本能としてあるんだろうなと思いますね。
水野:さて、いろいろお話を伺ってまいりましたが最後に。建築家を目指している方や、ものづくりの道を目指されている方に、何かメッセージをお願いします。
山田:難しいですね…、マイペースにやればいいのではないか、というのはあります。
水野:山田さん、絶対マイペースですよね(笑)。
山田:はい(笑)。ひととちょっと違う経歴で建築の世界に入ってきたのもあって、それが功を奏している部分と、苦労している部分、両方あるんですけど。みんなと同じことばかりやっていてもしょうがないし、ハウツーってないじゃないですか。だからマイペースに、興味を持っていることをどんどん深掘りしつつ、やりたいことを楽しんでやるのがいいんじゃないかなと思いますね。
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文・編集: 井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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