『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』軍司拓実さん【前編】

写真も映像も、現実と理想のいい落としどころを探していく作業

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。

休みの日に撮ったカエルの写真

水野:『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』ナビゲーターの水野良樹です。2024年11月2日に「いきものがかり 路上ライブ at 武道館」と題しまして、デビュー以来、初の弾き語りワンマンライブを行いました。こちらのアーカイブ配信が12月5日からスタートしましたので、ぜひご覧いただけたら嬉しいです。

ライブ配信はこちらから
https://www.streaming-ikimonogakari-budokan.com

そして本日のゲスト、映像作家の軍司拓実さんには、そのビハインドシーンも撮っていただいております。改めて、いろんなお話をお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

軍司:よろしくお願いします。

軍司拓実(ぐんじたくみ)
写真家/映像監督。1995年生まれ。株式会社コエ所属。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、DRAWING AND MANUALへの参加を経て2021年に独立。自ら撮影・編集を行うスタイルを中心に、MVやドキュメンタリーなど様々な映像を手掛ける。

水野:なんか照れますね。

軍司:いや、本当に緊張しますね。

水野:軍司さんにはこの番組のスチール撮影をしていただいたり、僕がやっているHIROBAでMVを撮っていただいたり、わりと頻繁に普段から会っているのですが、こうやって向き合ってお話させていただくのはある意味、初めてで。

軍司:そうですね。路上ライブ at 武道館にも入らせていただいて、いろんな場面を見させていただいているんですけど、改めてきちんとお話する場はなかなかなかったので嬉しいです。

水野:僕も嬉しいです。ありがとうございます。軍司さんが、写真や映像、何かを撮ることに興味を持った最初のルーツというと?

軍司:原体験が写真だったことは明確に覚えています。いちばん最初は、両親が持っていたカメラを旅行のタイミングで「撮ってみなよ」と渡され、撮って、帰ってきてその写真をみんなで見て。その時間がすごく楽しかったんです。さらに小学6年生ぐらいの頃、おばあちゃんがデジカメを買って、「自由に使っていいよ」と渡してくれて。それは当時というか、自分の体感では、わりと性能がよいものだったんですよ。

水野:へぇー!

軍司:それでその頃、休みの日に撮ったカエルの写真があって。いまだに自分でも好きな写真なんですが。何気ないカエルが枝にいて、たまたま自分が下にいたので撮ったら、カエルが見上げているような写真になったもの。そのとき、いつも見ているのと違う、いい感じの世界が見つかった!という感覚になったのを覚えています。「写真を通すと、こうやって見えるんだ」という驚きを最初に感じたのはそこでしたね。

撮影 軍司拓実

水野:子どもの頃は、おもちゃのように使っていたんですね。

軍司:はい、いつでもどこでも持ち歩いて撮っていました。たとえば、友だちに線路を背景にして立ってもらって、その後姿を撮るんですけど、踏切だからちょっとドラマを感じる絵になる、とか。そういうのを撮って、勝手に盛り上がったりしていましたね。

水野:撮ったものは、不特定多数のひとに見せたんですか? たとえばネット上にアップしたり。

軍司:僕が小学6年生とか中学生の頃って、まだそんなにSNSというものが普及してなくて。両親とかに見せて、「パソコンのデスクトップみたいじゃない?」とか言っていました。

近くのひとにも「いいね」と言ってもらいたい

水野:ある種、遊びのようにスタートして、そこから自然と「これでご飯を食べていこう」と思うようになっていったのでしょうか。

軍司:写真に関しては、シームレスに。ただ僕、美大に通っていたんですけど、写真は趣味でやっている程度でしたし、最初は映像とかもやっていなくて。もともと絵を描くのが好きだから、美大に行こうと思ったものの、絵画をやるほど作家に振り切れないというところで、デザイン学科に入って。

水野:はい、はい。

軍司:それから、デザイナーの世界もいろいろ見たんですけど、どうしても自分がそこを追求しきれる気がしなくて。たとえば、「こういうデザインをやった」って家族に言っても、なかなか伝わりにくくて反応が薄かったりするのも、どこかおもしろくなかった。そういう違和感を抱いていたとき、僕は軽音楽部に入っていたので、いろんなMVとかを常日頃から観ていて。

水野:あー。

軍司:映像というフォーマットなら、家族を含め、より多くのひとに観てもらえるかな。素直に「よかった」と言ってもらいやすいのかな。そんなことを大学3年生ぐらいの頃、急に考え始めて、映像に行こうと。

水野:家族の反応のある・なし、という影響が大きかったのは意外です。家族ってすごくプライベートな仲間じゃないですか。近いひとに肯定してもらいたい気持ちが強かったのですか?

軍司:そうですね。それは今もMVとかのお仕事をさせていただきながら思います。たとえば、20代前半の頃とか「このアーティストで、こういうテイストのMVで作れた!」と、ある意味ひとりよがりな満足で終わってしまい。作った瞬間は楽しいんですけど、時間が経ったとき、あまり満たされなくて。「もう少しいろんなひとに、いいなと思ってもらえるようになりたい」って、漠然と感じたんですね。

水野:へぇー。

軍司:その感覚は、デザインから映像に行くときに抱いたものと似ていたなと。近くのひとにも理解してもらえるとか、「いいね」って言ってもらえるとか、それは自分にとってかなり重要なのかなと思います。

水野:MVって、音楽を作っている側の思いとか、「こういうものを作りたい」というリクエストがあるじゃないですか。そういうコミュニケーションはどのようにしていくのですか?

軍司:僕が作りたいものも根本にはあるけれど、「まずそれは置いておいて」というところがあって。

水野:なるほど。

軍司:僕の作品でもあるけれど、結局はそのアーティストさんの名前で背負っていくところが大きいじゃないですか。だから、そのアーティストさんが「これは自分の作品としても持っておきたい、観せたい」と思えるものでありたい。そして、ファンの方が観たとき、「音楽と合っているね」と感じて、何回も観たくなるものでありたい。そこがいちばんの大目標にあって。

水野:はい。

軍司:さらにレーベルさんの、「このアーティストをこう見せていきたい」とか、「このタイミングだから、こういうMVになるといいな」とかも加えていって。それらをまとめた上で、かつ、自分が許せるところと許せないところの折り合いをつけていく。自分のなかでは、ずっとそういう順番で考えて作っているかもしれません。

現実に少しだけメイクする感覚

水野:ずっと“ひらいている”んだなという印象がありますね。軍司さんに作品を作っていただいたときにも、ドキュメンタリーとして僕らを撮っていただいた映像を拝見したときにも思いました。カメラの視点を置く基準は、どのように設けてらっしゃるのでしょうか。たとえば武道館ライブでも、吉岡が客席のみなさんをイメージしながら、少し手を伸ばして声かけのシミュレーションをしている瞬間を押さえてあったりするじゃないですか。

軍司:ドキュメンタリーに関しては、僕は現場で起きていることに対して、「こう見せたいな」と思ってわざと演出することはあまりやらなくて。起きていることをどう撮るか、みたいな感じなんですけど。

水野:そうなんですね。

軍司:たとえば、水野さんがおっしゃってくださった吉岡さんのシーンは、このあと行われる本番に際して、吉岡さんが耳元で音楽を聴きながらいろんなイメージされている様子とか。今ご自身の心のなかでステージ上のご自分を想像されている様子とか、そこが素敵だなと思って。それを撮りながら覚えておいて、編集であえてそこをピックアップする、というほうが近いですね。起きていることを自分なりに解釈して、編集でより伝わるようにしていく感じです。

水野:撮っているとき、編集のことも考えているんですか?

軍司:ずっと念頭にありますね。ドキュメンタリーなので、どうしても撮れ高に左右されるところがあって、何回も再構成しながら。でも自分で考えている構成に、現実を寄せすぎてしまうのも僕はあまり好きじゃなくて。

水野:撮った“素材という現実”に対して、出来上がったものってある種、虚構めいてくるじゃないですか。そこに距離がありすぎると、途端に臭くなっちゃうというか。

軍司:わかります、わかります。

水野:難しいですよね。たとえば、軍司さんの原点のお話のような、「写真によって実際のカエルとは違う、いい感じの世界が見つかる」って、すごく大事であり危ういところでもあるじゃないですか。僕らは、なぜ楽曲があるのに、MVを撮ってもらいたいのか。なぜライブ映像があるのに、ドキュメンタリーにしてほしいのか。それは、現実を綺麗に収めておきたいという気持ちや欲望もあるから。

軍司:はい。

水野:だけど嘘ではなく、僕らの熱量、呼吸感みたいなものを押さえてもらいながら、綺麗にまとめてもらう。そこの温度感を、軍司さんにはわかってもらえているんだろうなと思うんですよね。

軍司:嬉しいです。ありがとうございます。写真も映像も、現実と理想のいい落としどころを探していく作業なんだと思います。本物、リアルを忘れないことが大事で。その上で、現実に少しだけメイクする感覚。自分にはそれがいちばんいいのかなって。

お茶の間でみんながニコニコして観ていられるか

水野:ルールにしていることはありますか? 禁じ手とか。

軍司:そういうものをテーマにしているアーティストさんもいらっしゃると思うんですけど、それを踏まえた上で、下品になりすぎないように。あくまで、全員が見られるものというか。過度に誰かが不快に思う作品にはしたくないなと思いながら作っているかもしれません。

水野:それはなぜですかね。

軍司:自然とそう思ってしまうので、そういうバイアスが自分にかかっているところもあります。これもやっぱり家族とかが出てくる話で。お茶の間で、「これが僕の作ったMVです」って言ったとき、みんながニコニコして観ていられるか、みたいなところは想像してしまうんです。

水野:その感覚、現代のひとがなかなか持ちにくいものである気がします。どうしても過激なことをみんなやるでしょう。そうやって注目を集める競争に勝つ。そういうプライオリティがよくも悪くも非常に高くなってしまっている。だからこそ、「自分のコミュニティのなかのひとが受け入れられるもの」っていう、身近な公共性みたいなものを意識できることって、僕、すごく大事だと思っていて。

軍司:はい。

水野:それが今、HIROBAでも一緒にやっていただいている理由というか、リンクする部分なのかなって。HIROBAでゲストの方をお迎えしたり、仲間として作っていただいたりするとき、自分でも無意識のうちに、どこかでそういう姿勢を共有できるひととやっているなって思うんです。今日、お話を聞いていて、やっぱり軍司さんも近いものを持っているからこそ、一緒にお仕事させてもらえているんだなって改めて感じております。

軍司:めちゃくちゃ恐縮ですけど、ありがたいです。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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