たった1音のなかに、どれだけ自分が言いたいことを込められるか。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
今回のゲストは松井秀太郎さんです。

松井秀太郎
1999年生まれ。国立音楽大学附属高等学校を経て同大学ジャズ専修を首席で卒業。高校ではクラシックを専攻。日本モーツァルト青少年管弦楽団トランペット奏者として活動。同大学入学を機にジャズ専修へ転向し小曽根真、エリック・ミヤシロ、奥村晶らに師事。Newtide Jazz Orchestra のリード・トランペッターとして活躍。在学中より本格的にプロ活動を始める。現在、自身のソロ活動の他にアーティストサポート、スタジオミュージシャンとしても幅広く活動。ジャンルを超えたマルチな才能に注目を集めている。これまで、テレビ朝日『題名のない音楽会』やMBS/TBS 『情熱大陸』などメディアでも取り上げられ話題となっている。
何百人がいる場なのに静かな1音

水野:松井さんが音楽に興味を持った最初のきっかけというと?
松井:自分ではあまり覚えていないのですが、小さい頃、家にあった子ども用の小さいキーボードでよく遊んでいたらしく。それを見た親がちょっといいキーボードを買ってくれて、それをずっと弾いていたみたいです。幼稚園で先生がピアノを弾きながら歌っていた曲を、帰ってきて耳コピでやっていたり。気づいたときには、わりと自由に弾けるようになっていました。
水野:楽譜を見て弾く感じではなく。
松井:譜面はまったく読めなかったんです。「この子はピアノが弾けるみたいだ」と、親が習いにも行かせてくれたのですが、1の指とか弾き方が決められているのがイヤで。すぐに辞めてしまいました。
水野:そこからどのようにトランペットへ?
松井:本当に偶然ですね。小学校の頃に転校をして、そこで新しくできた友だちが金管バンドのオーディションに誘ってくれまして。それで金管バンドを聴いたこともないまま一緒にオーディションに行ったのですが、希望楽器を書かなければいけなくて。自分は「トランペット」しか知らなかったので、それを書いたらたまたま選ばれてしまった。そこが始まりなんですよね。
水野:やってみてすぐに「これは自分の天職だ」と感じられたのでしょうか。
松井:いや、まったく。小学校の金管バンドはクラブ活動だったので、吹いても週に数回でしたし、そんなに吹けるようにはならず。ドレミファソラシドがやっとのレベルで卒業しました。当時、並行しながらピアノも弾いてはいて。決められた音楽をやるより、友だちと遊びながら弾いているほうが楽しかったですね。

水野:バンドはやりたくなりませんでした?
松井:バンドもやりました。音楽高校だったので、文化祭とかでわりといろいろ、キーボード、ベース、ドラムなどなど。何でもできるわけではないのですが、とりあえずやってしまうタイプで。ひと通りやったと思います。
水野:音楽高校に入学されたということは、「音楽の道に進もう」と思われていたのですか?
松井:自分の中学が吹奏楽部の強豪校だったんですけど、「吹奏楽だけが音楽じゃないし、もっと専門的に音楽を学びたいな」と思ったんですよね。あと、中学に行けなかった時期もあって。ずっと家でひとり、トランペットを吹いていたんです。そのとき、「音楽をずっとやって生きていきたい。そして、同じ思いでいるひとたちと音楽がやりたい」と思って。それなら音楽高校がいちばんだなと、両親を説得して、入学した感じです。
水野:実際、音楽高校に進まれてみていかがでしたか?
松井:初めて音楽理論の授業を受けたときの記憶がとくに強く残っています。「ここはこうです」という説明的な内容かと思ったら、ピアノのソロ楽譜をみんなで見ながら、「もしこれをオーケストラにするなら、楽器はなんだと思う?」みたいな授業が始まって。「ああ、自分はこういうことがやりたかったんだ」と思いました。自分に合っているなと。そういう出会いがたくさんありましたね。
水野:また、松井さんにとって、ジャズピアニストの小曽根真さんとの出会いも大きかったと伺いました。
松井:ジャズはまったくやったことなかったのですが、「なんかカッコいい」と思って、国立音楽大学のジャズ専修に入学しまして。そこに小曽根さんがいらっしゃったんです。そしてあるとき、即興演奏の授業で小曽根さんが、「これが正解とか、こう吹かなきゃいけないとかじゃなく、自分が吹きたい音を探していくことがいちばん大事なんだ」というお話をされていて。そこからジャズがよりおもしろくなって、気づいたら没頭していました。
水野:とくにジャズのどんなところに惹かれたのですか?

松井:聴くのも好きですが、演奏するときに、奏者自身の表現がとても求められるジャンルであるところですかね。「あなたならどうしますか?」と言われている感じが、自分には合っているというか。
水野:演奏の瞬間、何がいちばん楽しいですか?
松井:「ここは絶対にこうしたい」と決めている部分と、その場で決まっていくスリルのバランス感がおもしろいですね。とくに自分はほぼ即興でやるので、5分とか10分とかある曲でも、本当に簡単な楽譜をメンバーに渡すだけなんです。すると、奏者に委ねられている部分が大きいし、会場の響きによってもかなり変わる。そのときのメンバーと場で展開が作られていく感覚を大事にしています。
水野:即興のとき、どうコミュニケーションを取っていくんですか?
松井:演奏中、「そっちに行こうとしているな」と気づいたり、決められてきたものを完全に壊していくときもあったり、「あ、こっちじゃないな」と思ったとき、みんなもそう思っているか考えたり。みんなで同じ方向に行けたら、それはとてもいいことですし。行けなくても、それはそれでぶつかり合いがおもしろくなったりします。その場の空気感が楽しいですね。
水野:お客さんの存在はどれぐらい意識しています?
松井:ジャズのおもしろいところは、お客さんのテンション感でも演奏が変わるところで。そこは意識するというより、変わってしまう感覚ですね。
水野:それはお客さんの空気を読むことができているということですね。「今、会場の雰囲気はアツくなっているな」とか、「まだクールな状態だな」とか。
松井:もちろん盛り上がっているときはパワーを感じるんですけど。静かな曲でピアノが1音、パーンッと鳴った響きを、何百人がものすごく静かに聴いているとき、そこにエネルギーみたいなものが見えるというか。誰もいない静かなホールでの1音と、何百人がいる場なのに静かな1音とだとまったく違う気がしますね。
歌うように吹く

水野:2024年10月には2nd Album『DANSE MACABRE』をリリースされましたね。
松井:タイトル曲がSaint-Saënsの“死の舞踏”を自分の解釈でアレンジしたものになっておりまして、そこからアルバムタイトルもつけました。
水野:ニューヨークでレコーディングされたそうで。
松井:海外でのレコーディングは初めてで、すごかったです。本当に自分が大好きな、世界の第一線で活動されているミュージシャンの方々だったので、ずっと感動しっぱなしでした。
水野:松井さんからしてどういうところが輝いて見えます?
松井:音楽ファーストであるところですね。もちろん技術もボキャブラリーも素晴らしいのですが、「そこにある音楽がどうやったらいいものになるか」をいちばん大事にしている感じがして。あと、自分はそんなに英語が話せないので、「どう伝えようか」と準備していったんです。でも結局、みなさん楽譜を見ただけで、「こうしたいんだ」ということが伝わっていて。どんどん出来上がっていった。ほとんど喋らなくてよかったんです。
水野:結構、テイクは重ねましたか?
松井:いや、やっぱり1テイク目のパワーってあるじゃないですか。数テイク録ったものもありますが、基本的には1発録りの形でした。だからそんなに時間もかからずに完成しましたね。

水野:ジャズの場合、いろんなスタンダードな楽曲がありますが、それを再解釈していくとき、どういうスタンスで向き合っていくのでしょうか。
松井:たとえば、今回の“死の舞踏”はもともと好きな曲だったので、どうアレンジしようというより、もう聴いたときから、「自分ならこうやりたいな」というものが出てきていたんですね。それをそのまま形にしました。
水野:同じ曲に向き合っても、ひとによってまったく違うものになっていくのがおもしろいですよね。膨大な人々がやってきているなかで、どのように自分らしさを出すのですか?
松井:自分がいちばん大事にしているのは、トランペットで歌を歌うように吹くことですね。トランペットはとても声に近い楽器なので。曲をやる上で、自分が歌いたいように吹くことを意識しています。
水野:頭のなかに歌のイメージはあるんですか?
松井:演奏しているとき、自分のなかに自然とメロディーの解釈が落ちている感覚ですね。
水野:松井さんにとって“いいメロディー”とは何だと思いますか?
松井:いかに無駄なものを削ぎ落せるか。本当にシンプルなもの、たった1音のなかに、どれだけ自分が言いたいことを込められるか。そこを大事にしているものが“いいメロディー”ですかね。いちばん単純なことをやるのが、いちばん難しいですから。いろんな仕掛けを作って華やかにするよりは、まず基礎ですね。
水野:以前、「ルパン三世のテーマ」を作った大野雄二先生にお話を伺ったことがありまして。そのとき、「若い頃にいろいろ複雑なことをやったけれど、途中で素晴らしいドミソがあることに気づいた。そこから広がった」とおっしゃっていたんです。今、松井さんのお話を伺いながら、近いなと感じました。縦横無尽に演奏的なボキャブラリーが増えていく過程を進んでいても、シンプルな方向にたどり着くんですね。ロングトーンひとつで。
松井:そこが管楽器の魅力でもありますね。息なので表現がすごくしやすいんです。
デュオはふたりの会話

水野:来月からはDUOツアーが始まるんですよね。
松井:ピアニストの壷阪健登さんと、ふたりでコンサートホールをまわります。マイクを使わず、完全にその場で出ている自分たちの音のみで。お客さまみなさんと、ひとつの空間を作る感じがあります。何も決めず曲がスタートするので、どこに行くのかも本当にわからない。そういう形の演奏をお楽しみいただけると思います。
水野:1対1の演奏と、複数での演奏って違うものですか?
松井:かなり違いますね。人数が多いほど、エネルギーの量、パワーは増えるじゃないですか。ただその分、最終的にどうなるかということを、ある程度は決めておかなければいけない。いろんな楽器があるので、役割が分担されますし。逆にひとりだけだと、自分が想像しなかったものが入ってこないので、自分の想像範囲内の演奏になってしまうんですよ。
水野:なるほど。
松井:そこでいちばん自由なのはデュオかなと。極論、ふたりだけわかっていればいいことですし、まったく知らないものが入ってきて、予想外の展開にもなるんです。ふたりの会話みたいな感じ。
水野:すごくわかりやすい。どんな会話になるのかも、予想がつかないってことですよね。
松井:はい。会話って、肯定ばかりされてもおもしろくないじゃないですか。「それってさぁ」とか、「いや、これは違うんじゃない?」みたいなことが入ってくることによって、どんどんおもしろくなる。そこがデュオの楽しいところだと思いますね。

水野:これからどんな演奏家になっていきたいですか?
松井:リスクを恐れず、新しいもの、やってみたいものに飛び込んでいける演奏家になりたいです。ジャズを始めるときもそうでしたが、「なんかいいな」と思っているものに飛び込んでみると、失敗もしますが、そこで新たなものが見えるから。そういう経験は自分からつかみ取っていかないと、なかなかできないものだなと思います。
水野:小さい頃から一貫されていますね。では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
松井:自分も演奏家としてうまくいかないこともたくさんありますが、それでも、「それがやりたい」という気持ちだけでずっとやってきています。やってみないと見えてこないことがすごくある。なので、挑戦をし続けてほしいと思いますね。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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