言葉がないインストゥルメンタルだからこそ、もっと海外で。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
「ヴィレヴァン下北沢の大きい山がやっと動いた」
水野:今回のゲストは、fox capture planのカワイヒデヒロさん、井上司さんです。よろしくお願いします。いきものがかりのニューアルバム『あそび』では「うきうきぱんだ」という新曲をfox capture planのみなさんにプロデュースしていただきました。まず、お2人が音楽に興味を持った最初のきっかけというと?

fox capture plan(フォックス キャプチャー プラン)
現代版ジャズ・ロックをコンセプトとした情熱的かつクールで新感覚なピアノ・トリオ・バンド。それぞれ違った個性を持つ、岸本亮(Pf.)、カワイヒデヒロ(Ba.)、井上司(Dr.)の3人が未踏のピアノトリオサウンドを目指し、2011年に結成。数々の賞を受賞しており、その他、国内外の大型フェスへの出演、ドラマ・映画・アニメ・CM・ゲームの楽曲制作や、アーティストへの楽曲提供など、活動のフィールドは多岐にわたる。
カワイ:僕は叔父が作曲家なのですが、「そういう世界もあるんだな」ぐらいで、自分でやりたいとは思っていなかったんです。音楽自体は好きで、L’Arc-en-CielさんやGLAYさんをよく聴いていました。それが18歳ぐらいのとき急に、「やってみようかな」と興味が湧いて、音楽を始めた感じですね。
水野:どうしてそこでベースを選んだのですか?
カワイ:ベースは押さえるところがひとつでいいじゃないですか(笑)。最初は、親が持っていたギターを弾いてみたんですけど、手が痛くなるし、初心者にはFコードを押さえるのが難しいし、早々に諦めて。あと、「作曲をするならピアノは弾けたほうがいいよ」と言われて、大人のヤマハ教室にも通いましたね。
井上:僕の場合、母も妹もずっとピアノをやっていたんです。それで僕も3歳からピアノを始めたんですけど、演奏することがまったく好きではなくて、小学校いっぱいでやめました。その後、中学生でニルヴァーナというバンドに出会って。ライブ映像でデイヴ・グロールのドラムをひと目見て、「将来、決まり!」みたいな。

水野:3人はどういう出会いだったのでしょうか。
カワイ:まず、僕と岸本亮がそれぞれ別のバンドをやっていて、対バンなどで知り合いました。それであるときに僕が、「遊びで一緒にバンドをやろうよ」という話をしたら、「じゃあトリオをやりたいから、ドラマーを探しておく」と岸本に言われて。その後、「ドラマーに出会ったよ」と。
井上:僕は上京してからずっと激しいバンドばかりやっていて。当時のバンドメンバーが岸本と友だちで、岸本がライブに来てくれるようになって、僕のドラムをおもしろがってくれたんです。クラブジャズシーン界隈にはいないタイプだから。それで「セッションしようよ」とスタジオに誘ってもらったのがfoxのきっかけですね。
カワイ:2010年の秋くらいにスタジオに入って。でも、何をやるか決まってなくて、コンセプトゼロ。とりあえずセッションをしたんですけど、「んー…」みたいな感じで終わったんですよ。
井上:誰もピンと来てなかった(笑)。僕はピアノとウッドベースと合わせるのも初めてだったので、ちょっとジャズ風にやろうとしたんですけど、2人としてはむしろゴリゴリのロックスタイルでそのまま来てほしかったみたいで。そういう食い違いもあって、なかなかハマらず。

カワイ:そもそも僕はスタジオで初めて会ったので、どんなジャンルのドラマーなのかも知らず。後日、岸本と2人で司ちゃんのライブを観に行って、「あ、こういうドラマーなんだ! それなら違う曲だったかも」と思って。そして2011月の頭ぐらいに岸本がデモを作ってきて、「曲ができたから、もう1回スタジオに入ろう」と。で、「じゃあ俺も作るわ」って、2回目のスタジオに入りましたね。
井上:2回目もまだモヤッとはしていたけれど、2人が僕の特徴を掴んでくれたのか、foxのデビュー曲や1stアルバム収録曲のデモがどんどん来て。「これはバンドになるな」と。
カワイ:「いっちょやってみるか」と始めて。そうしたら岸本が急に、「ワンマンライブを組んだから」って。
井上:そうそうそう、バンド名も何にも決まってないのに。
水野:ワンマンはどうだったんですか?
カワイ:その箱にしては結構入ったな。
井上:うん、いい感じの形にはなりました。
水野:「この3人で行ける」と思ったのはどのあたりから?
カワイ:最初のCDというか、数曲のデモ版みたいなものを出したら、タワレコのバイヤーの方が気に入ってくださって。「うちの新宿店で100枚限定で売ります」と言ってくれたものがすぐに売れて。結果300枚ぐらい作ったんです。さらにそのあと、ヴィレヴァンさんで取り上げてもらったあたりじゃない?

井上:そうだね。当時、ヴィレヴァンさんが音楽をいい感じに売ってくれていて、とくに下北沢店が盛り上がっていて。今でも覚えているんですけど、レーベルのディレクターから「ヴィレヴァン下北沢という大きい山がやっと動いた」と連絡が来たんですよ。そこから全国のヴィレヴァンにどんどん広がっていきましたね。
カワイ:「下北沢で置いているんだったら、これは間違いないでしょう」みたいな感じで。
井上:別にそんなすぐ2ndアルバムを出す考えはなかったんですけど、1stアルバムへの反響がメンバーの予想をはるかに上回っていたので、「すぐ作るか」となりました。
カワイ:レコーディングしてないものも数曲あったので、「これをもう録っちゃおう」って。1stアルバムから約半年後には2ndアルバムを無理やり出したんですよね。
あり得ない楽器の組み合わせもOK

水野:その後は劇伴で名前を拝見することも多くなっていきましたね。
カワイ:foxを結成したての頃、僕は個人で劇伴をやっていたんです。そして、ヴィレヴァンで盛り上がってきたタイミングで、もっとこのバンドをアップさせたいなと思いまして。「foxでも劇伴をやってみようかな。宣伝してくれませんか?」と、一緒に仕事をやっていた方に頼んだら、「わかりました」と。その半年後、2015年に3人でドラマの劇伴を担当することが決まりました。それから少しずつ増えていった感じです。
水野:自分たちの音楽とはまた違う枠組みで、戸惑いはありませんでしたか?
カワイ:最初の作品が、「王道の劇伴作家ではなく、おもしろいひとを使ってみたい」というコンセプトで担当を探していたところ、僕らに声がかかったみたいで。当時は、バンドサウンドを劇伴にすることってあまりなかったのですが、それがきっかけでだんだんバンドサウンドも入れていいような雰囲気になっていった気がします。
井上:少し話が広がってしまうのですが、その2015年の1発目の劇伴のとき、初めてストリングスとかを入れたんですよ。それまでfoxはオリジナルで3人の音しか使っていなかったけれど、「バンドサウンドにストリングスを入れるの、俺らに合うじゃん。自分たちのオリジナルにも使おう」となって。直後に出したアルバム『BUTTERFLY』から、ストリングスとかいろんな楽器を入れるようになったんですよね。
カワイ:フィードバックがちゃんとできあがっている感じはあったよね。司ちゃんに関してはそれまで、「作曲なんか俺は絶対しねえ」ぐらいの感じだったのに(笑)。
井上:クラブミュージックが好きで、DJとかトラックメイキングはどこにも発表しない遊びとして、ひとりでやっていたんですけど、作曲はまったく。「いや、俺はドラムを叩ければいいから」みたいな(笑)。
水野:作曲に取り組んでみていかがでした?
井上:最初は戸惑いもありましたけど、バンドの名前で引き受けている仕事なので、やらざるを得ない環境で。小さい頃にピアノをやっていた頃の音感をたどったり、自分流のやり方で作っていったら、だんだん楽しくなっていきました。劇判の回数も重ねていったことで、経験値も増えていきましたし。
水野:3人がそれぞれ作っていると、fox capture planらしさを保つのが難しくはありませんでしたか?
カワイ:結構、ピアノトリオサウンドを基準にオファーをいただくことが多く、わりと3人の音が入っているんですよね。だからピアノトリオ+αのような感覚で進めていました。やっていくうちにだんだん、「foxの劇伴はこういうサウンド」という要素が固まっていった気がしますね。
水野:バンドとしての音もあれば、劇伴としての音もあり、幅があっておもしろそうですね。
カワイ:そうですね。劇伴も「こういうテーマの曲を」というオーダーはありますが、どんな楽器を入れるかはこちらの自由なので、もう思いのままに。あまりあり得ない楽器の組み合わせもOKである楽しさがあります。
水野:音楽のインプットはどのようにされていますか?
カワイ:たとえば、劇伴を作るときに監督さんから、「作ってほしいイメージに近い曲はこれです」というテンプ・トラックをいただくことがあるんです。それを聴いて、「こういうのもあるんだ。初めて知ったわ」と、どんどんサブスクで深掘りしていったり。あとは、オススメ機能で、聴いたことのない曲を聴いたり。そうやって、楽器の構成や使い方、コード進行などを分析していますね。
井上:僕もそれはありますね。ジャンル関係なくいろんなひとのライブを観に行きますし。あと、バンドで他のアーティストの曲をカバーすると、自然と曲の構成などがインプットされている感覚もあります。
カワイ:そうだね。名曲は名曲たる理由がどこかにあるから。
井上:それは意外と聴いているより実際にやってみたほうがわかるね。
やっぱり言葉は強い

水野:せっかくなので、いきものがかりのニューアルバム『あそび』収録曲で、fox capture planのみなさんにプロデュースしていただいた新曲「うきうきぱんだ」についてもお伺いしたいのですが、この曲のデモが来たときはどんな気持ちでしたか?
カワイ:タイトルと曲調に二面性があるというか。爽やか的な歌詞ではないなと思いました。だから、ちょっと癖のあるアレンジにしようかどうか悩んでいたんですけど、打ち合わせをさせていただいたときに、「もう好きにやっちゃってください」と言ってくださって。「じゃあもうイケイケの曲にしよう!」と、試しにラテンロックな感じで送ったらそれを「いい」と。
水野:「ラテンで来たんだ!たしかにありかもしれない」って、みんなで衝撃を受けました。そのアイデアはなかったから。
カワイ:僕はもとのコード進行から、「ラテン調が合うだろうな」と思ったんですよ。あと、最初は歌詞に「(仮)」って書いてあったじゃないですか。語呂がいいから、いったんこんな感じにしているのかなと思ったら、本チャンもそのままだった(笑)。歌詞は吉岡さんが書かれたんですか?
水野:いや、僕がすべて書きました。吉岡に何の許可ももらわず(笑)。でもやっと形になって嬉しかったです。
カワイ:コーラスとか、「こういうふうに重ねるんだ。すごい」と思いました。
井上:めちゃくちゃいい感じですよね。
水野:お2人は他のアーティストとコラボレーションするとき、どう取り組まれていくことが多いですか?

カワイ:自分たちが作った曲を歌ってもらうのか、お相手が作った曲を僕らがアレンジやプロデュースするのかで少し違います。でも基本的には、お任せだったらこちらの好き放題にやらせていただくし、自分たちで曲を作っていたら、「こういう曲だからこう歌ってください」とわりと実務的なディレクションをしてしまいますね。
水野:歌、というものに対してはどのような印象がありますか?

カワイ:歌詞があるから、世界観を作りやすいというのはありますね。やっぱり言葉は強い。作詞は歌う方にお任せすることが多いのですが、そういう世界観をちゃんと持っている方にオファーしたいという気持ちはあるかもしれません。
水野:井上さんはソロでも活動されていますが、バンドとの作品はどのように切り分けていらっしゃいますか?
井上:foxではできないことを、ソロでやる感覚です。ソロアルバムは半分ぐらい打ち込みドラムで、いろんなシンガーやラッパーを呼んだりしていて。曲によっては生楽器も入りますが、バンドサウンドとはちょっと違うんですよね。僕ひとりが軸になって、いろんなひとたちが入れ替わり立ち替わり、木がどんどん大きくなっていくようなイメージです。根本がバンドとはまったく違いますね。

水野:fox capture planとして、これからやってみたいことはありますか?
カワイ:言葉がないインストゥルメンタルだからこそ、もっと海外でやりたいというのはありますね。いろんな国でみなさんに聴いてもらって、そのリアクションを見てみたいです。
井上:コロナ禍がいちばん海外公演の決まっているタイミングで。1年の半分近くが海外予定だったのですが、すべてぶっ飛んだので、少しずつまた復活していきたいですね。
カワイ:リベンジしたいね。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言ずつお願いします。
カワイ:インプットとアウトプットを大事にすること、ですかね。自分のなかにあるものだけでアウトプットを続けると、いつかは枯れてしまうと思うので、常にインプットしながら出していく。そういうバランスも必要だなと思います。
井上:とにかく時間は有限なので、ひとりで考えこんで先延ばしにするよりは、とりあえず動くこと。そうしたら、自分の予想していなかった何かが目の前に待ち構えていたりするかもしれません。やりながらどんどん完成形に近づけていく。動いていると、まわりからいろんなものがくっついてきて、さらにいいものになっていくんじゃないかなと思います。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:枝村香織
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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